三 井 寺
四番目物・狂女物 作者不明
子供をさらわれた女が霊夢により三井寺に行くと少年と僧達が月見をしており、鐘楼に近づき鐘を鳴らそうとしたが、咎められ、中国の詩の故事を引いて許しを得ると鐘を撞く。やがて女の国を尋ねると駿河の国清見が関と聞き、少年の母親だと気が付き再会を果たし、故郷へ帰った。
前シテ:千満の母 後ジテ:同女 子方:千満 ワキ 三井寺の僧
ワキヅレ:随行の僧 オモアイ:三井寺の能力 アドアイ:清水寺門前男
女 其外爰にも世々の人、言葉の林の兼ねて聞く
同 名も高砂の尾上の鐘、曉かけて秋の霜、曇るか月もこもりくの、初瀬も遠し難波寺
女 名所多き鐘の音
同 つきぬや法の聲ならん。
同 山寺の、春の夕暮來て見れば、入逢の鐘に、花ぞ散りける、實惜しめ共、など夢の春と暮れぬらん、其外曉の、いもせを惜しむきぬ/\の、恨みを添ふる行ゑにも、枕の鐘や響くらん、又待宵に、更けゆく鐘の聲聞けば、あかぬ別れの鳥は、物かはと詠ぜしも、戀路の便りの、音づれの聲と聞くものを、又は老らくの、寝覺め程經るいにしへを、今思ひ寝の夢だにも、涙心のさびしさに、此鐘つく/\と、思ひを盡くす曉を、いつの時にか比べまし
女 月落烏鳴て
同 霜天に滿ちてすさましく、江村の漁火もほのかに、半夜の鐘の響きは、客の舟にや通ふらん、篷窓雨しただりて、なれし鹽路の楫枕、うきねぞ變はる此海は、波風も靜かにて、秋の夜すがら月澄む、三井寺の鐘ぞさやけき。
山寺の、春の夕暮來て見れば、入逢の鐘に、花ぞ散りける
巻第二 春歌下 116 能因法師
山里にまかりてよみ侍りける
山里の春の夕ぐれ來て見ればいりあひのかねに花ぞ散りける
待宵に、更けゆく鐘の聲聞けば、あかぬ別れの鳥は、物かは
巻第十三 恋歌三 1191 小侍従
題しらず
待つ宵に更けゆく鐘の聲聞けばあかぬわかれの鳥はものかは
月落烏鳴て霜天に滿ちてすさましく、江村の漁火もほのかに、半夜の鐘の響きは、客の舟にや通ふ
楓橋夜泊 張継
月落烏啼霜満天江楓漁火対愁眠
姑蘇城外寒山寺夜半鐘声到客船