たれもあ者れとやおほされけん。あるはなおしの
そてをかほにあ○あるはおもてをかへにむ可へて
おの/\ことはすくなになりておハしけるほとに
山乃うへよりあま二人おりたりけり。ひとりハ
ハなこをもちひとりハつまきをひろいもちたり。
やう/\ち可つき給をミれハ者なこもちたるハ女院
にてものしたまひけり。つま木もちたるは昔ち
かくめしつ可者せ給ける人なりけり。お乃/\な
見たをな可してあきれあひたまへり。さてそハ
乃まよりいらせたまひて御そてかきあハせて
むかひまいらせておハしましけり。い可に事にふれ
てたよりなき御事も侍らん○○。なとさま/\可
たらハせたまへはなに可ハたよりなくもわひし
くも侍へき。いミしき善知識にこそ侍れ。つねに思ひ
いて者へれハなミたもとゝまらす。者な乃ミやこお
いてしより返見れハわ可すミ可とおほしくて
誰も哀れと思されけん。
或は直衣の袖を顔に当て、或は面を壁に向かへて、各々言葉少なくなになりて、御座しける程に、山の上より、尼二人下りたりけり。
一人は、花籠を持ち、一人は、爪木を拾い持ちたり。
漸う、近づき給を見れば、花籠を持ちたるは、女院にてものし給ひけり。
爪木持ちたるは、昔、近く召し使はせ給ける人なりけり。
各々涙を流して、あきれ相給へり。
さて、側の間より入らせ給ひて、御袖かき合はせて、向かひ参らせて御座しましけり。
「如何に事に触れて、頼り無き御事も侍らんかし。」など、樣々語らはせ給へば、
「何かは、頼り無くも侘びしくも侍るべき。
いみじき善知識にこそ侍れ。
常に思ひ出で侍れば、涙も留まらず。
花の都を出でしより、返見れば、我が住み家と思しくて