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謡曲 船橋

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舟    橋

                   四番目物・執心男物 世阿弥作

熊野の山伏一行が陸奥平泉への途中上野国佐野の里の川辺で、橋建立勧進の男女に会い、佐野の舟橋の謂れを万葉集の歌を引いて語り、役行者の一言主命の逸話から行者こそ勧進に応ずべきと勧める。山伏は、万葉集の「佐野の舟橋とりはなし」は、「取り放し」か「鳥は無し」のどちらかと尋ねると、万葉集の逸話である若い男が人目をしのんで女に逢いに橋を渡っていたら親同士が橋を取り放していて男は死んでしまったことを語る。
その男女こそ自分たちと語り、弔いを頼み夕暮れの空に消える。その夜加持をする山伏たちの前に二人の霊が現れ、女は救いに喜び、男は妄執により成仏できぬと訴え、山伏の法力により成仏する。


シテ いかに客僧、橋の勧めに入て御通り候へ

ワキ 見申せば俗躰の身として、橋興立の心ざし、かえす/“\も優しうこそ候へ

シテ 是は仰とも覺えぬ物哉、必ず出家にあらねばとて、志の有まじきにても候はず、先勧めに入て御通り候へ

ワキ 橋の勧めには參り候べし、扨此橋はいつの御宇より渡されたる橋にて候ぞ

シテ 万葉集の歌に、東路の佐野の舟橋取り放しと、詠める歌の心をばしろしめし候はずや

ツレ いや左樣に申せば恥づかしや、身のいにしへも淺間山

シテ 焦がれ沈みし此川の

二人 さのみは申さじさなきだに、苦しび多き三瀬川に、浮かぶ便りの船橋を、渡してたばせ給へとよ。

ワキ 實々親し離くればの物語、さては古りにし船橋の、主を済けん其ためか

シテ 殊更これは山伏の、橋をば渡し給ふべし

ワキ そも山伏の身なればとて、とりわき橋を渡すべきか

シテ さのみな争ひ給そとよ、役の優婆塞葛城や、祈りし久米路の橋はいかに

女 譬ふべき身にあらねども、われも女の葛城の神

シテ 一言葉にて止むまじや、ただ幾度も岩橋の

女 など御心にかけ給はぬ

二人 去ながらよそにて聞くも葛城や、夜作るなる岩橋ならば、渡らんことも難かるべし。

同 是は永き春の日の、長閑き水の船橋に、さして柱もいるまじや、徒に朽果てんを、作り給へ山伏。

同 所は同じ名の、所は同じ名の、佐野のわたりの夕暮に、袖うち拂ひて、御通りあるか篠懸の、比も春也河風の、花吹き渡せ船橋の、法に往來の、道作り給へ山伏、峰々巡り給ふとも、渡りを通らでは、いづくへ行かせ給ふべき。

 

※よそにて聞くも葛城や
巻第十一 恋歌一 990 よみ人知らず
題しらず
よそにのみ見てややみなむ葛城や高間の山のみねのしら雲

※佐野のわたりの夕暮に、袖うち拂ひて
巻第六 冬歌 671 藤原定家朝臣
百首歌奉りし時
駒とめて袖うち拂ふかげもなし佐野のわたりの雪のゆふぐれ

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