宜秋門院丹後
女房哥詠みには、丹後、やさしき哥あまた詠めりき。
苔の袂に通ふ松風
木の葉雲らで
浦漕ぐ舟は跡もなし
忘れじの言の葉
殊の他なる峯の嵐に
この他にも多くやさしき哥どもありき。人の存知よりも、愚意に殊に/\よくおぼえき。
故攝政は、かくよろしき由仰せ下さるゝ故に、老の後にかさ上がりたる由、たび/\申されき。
※苔の袂に通ふ松風
巻第十八 雑歌下 丹後 1794 春日の社の歌合に松風といふことを
なにとなく聞けばなみだぞこぼれぬる苔の袂に通ふ松風
※木の葉雲らで
巻第五 秋歌上 丹後 593 題しらず
吹きはらふ嵐の後の高峰より木の葉くもらで月や出づらむ
※浦漕ぐ舟は跡もなし
巻第十六 雑歌上 丹後 1505 和歌所の歌合に湖上月明といふことを
夜もすがら浦こぐ舟はあともなし月ぞのこれる志賀の辛崎
※忘れじの言の葉
巻第十四 恋歌四 丹後 1303 建仁元年三月歌合に逢不會戀のこころを
忘れじの言の葉いかになりにけむたのめし暮は秋風ぞ吹く
※殊の他なる峯の嵐に
巻第十七 雑歌中 丹後 1621 鳥羽にて歌合し侍りしに山家嵐といふことを
山里は世の憂きよりも住みわびぬことのほかなる峯の嵐に