あかねさす
新古今恋物語
著者:加藤千恵
発行:河出書房
初版:2011年10月30日
新古今和歌集の歌をモチーフにした短編小説集。最後に当該和歌の短歌訳。
加藤千恵は、ハッピーアイスクリームで高校生でデビュー。自由律の口語短歌。
和歌
目覚めする身を吹きとほす風の音を昔は袖のよそに聞きけむ 和泉式部
短歌訳
触れてみて初めてわかる 想像はしょせん想像でしかない 加藤千恵
はしのなみにくちぬる名をおしみ
ても心うちにうこきことほかにあら
はれすといふことなし。いはむやすみ
よしの神はかたそきのことのはを
のこし傳教大師は我たつそまに
おもひをのへたまへり。かくのことき
しらぬむかしの人の心をもあらはし
ゆきて見ぬさかひのほかのこと
(長柄の)
橋の浪に朽ちぬる名を惜しみても、心(の)うちに動き、こと(ば)ほかにあらはれずといふ事なし。いはむや住吉の神は片そぎの言の葉を残し、伝教大師はわがたつ杣の思をのべ給えり。かくの如き知らぬ昔の人の心をもあらはし、行きて見ぬ境のほかの事
(をも知るは、ただこの道ならし。)
頓阿(とんあ / とんな)
正応二年(1289年) - 文中元年/応安五年(1372年)。鎌倉時代後期から南北朝時代の僧。父は二階堂氏一族の二階堂光貞とされるが、藤原師実の子孫という説もある。俗名は二階堂貞宗。子に僧・歌人の経賢がいる。
西行を史蹟を慕って諸国を行脚、京都東山双林寺の西行の旧跡に草庵を構えるなど隠遁者の生活を送った。二条為世に師事して活躍、二条派(歌道)再興の祖とされ、20歳代で慶運・浄弁・吉田兼好とともに和歌四天王の一人とされた。
地下の歌人であり、歌壇での活躍は晩年であった。「新拾遺和歌集」撰進の際には撰者二条為明が選集の途中で亡くなったことから、頓阿がそれを引き継いで完成させたが、撰者となったのは76歳の時である。北朝の実力者二条良基の保護を受けた。
『続千載集』以下の勅撰和歌集に44首が入集。著書に『井蛙抄』、『愚問賢註』などがある。
古筆了音
延宝二年(1674年)-享保十年(1725年)。江戸時代前期-中期の古筆鑑定家。古筆了(りょうみん)の次男。父のあとをつぎ,古筆宗家6代となった。姓は平沢、名は最博。
壬午
元禄十五年(1702年)
20.5cm×13.5cm
平成28年1月15日 拾陸
大炊の御門の齋院いまだ本院におはしましし比かの宮の中將のきみのもとよりみかきのうちの花とてをりてたびて
しめのうちは身をもくだかず櫻花をしむこヽろを神にまかせて
かへし
しめのほかも花としいはん花はみな神にまかせてちらずもがな
この中將の君に清經の中將の物いふときヽしをほどなくをなじ宮のうちなる人におもひうつりぬときヽしかばふみのついでに
袖の露やいかヾこぼるヽあしがきをふきわたるなる風のけしきに
かへし
ふきわたる風につけても袖の露みだれそめにしことぞくやしき
平治元年(1159年)10月25日~嘉応元年(1169年)7月26日
斎院中将 前斎院女別当と言う異本も有り、俊成の女。
大内記是則
みよしのヽ
やまのしら雪
つもるら
し
ふるさとさむく
なりまさるなり
松風 印
み吉野の山の白雪積もるらし古里寒くなりまさるなり
古今集巻第六325
ならの京にまかれりける時に
やとれりける所にてよめる
坂上是則
みよしのの山の白雪つもるらしふるさとさむくなりまさるなり
和漢朗詠集
みよしのの山のしらゆきつもるらしふるさとさむくなりまさるなり
俊成三十六人歌合
左 坂上是則
みよしののやまのしらゆきつもるらしふるさとさむくなりまさるなり
いははしの
よるのちきりも
たえぬへし
あくるわひしき
かつらきの
神
松風
印
岩橋の夜の契りも絶えぬべし明くる侘しき葛城の神
いはばしのよるのちぎりもたえぬべしあくるわびしきかつらぎのかみ
俊成三十六人歌合
小大君
いははしのよるのちきりもたえぬへしあくるわひしきかつらきのかみ
拾遺集1201
大納言朝光下らふに侍りける時
女のもとにしのひてまかりてあ
か月にかへらしといひけれは
春宮女蔵人左近
いははしのよるの契もたえぬへしあくるわひしき葛木の神
平成28年1月16日 壱
左近衛番長壬生忠峯
はるたつといふ
はかりにや
みよしのヽ
やまも
かすみて
けさは
見ゆらん
春立つといふばかりにやみ吉野の山も霞て今朝は見ゆらむ
はるたつといふはかりにやみよしののやまもかすみてけさはみゆらむ
拾遺集 巻頭歌
平さたふんか家歌合によみ侍りける
壬生忠岑
はるたつといふはかりにや三吉野の山もかすみてけさは見ゆらん
平成28年1月16日 壱
大僧正遍照
すゑのつゆもとの
しすくや
よの中の
おくれ
さきたつ
ためし
なるらん
新古今和歌集 巻第八哀傷歌
遍照
末の露元の滴や世の中の遅れ先立つ例なるらむ
俊成三十六人歌合
遍昭
すゑのつゆもとのしつくやよのなかのおくれさきたつためしなるらむ
和漢朗詠集
すゑのつゆもとのしつくやよのなかのおくれさきたつためしなるらん
平成28年1月16日 壱
在原朝臣業平
代の中に
たえてさくらの
なかりせは
はるの
こヽろはのどけ
からまし
古今集 春歌上 53
なきさの院にてさくらを見てよめる
業平
世中にたえてさくらのなかりせは春の心はのとけからまし
伊勢物語
平成28年1月16日 貮
言葉集第十四 雑上
本院ノ藤サカリナリケ○○
コゝロアラン人ニミセハヤト
女房申アヒタリケレハ
高倉三位ノ御許ヘヨミテ
タテマツリケル
前斎院帥
ミセハヤナイロモカハラヌコノモトノ
キミニマ○○○カゝルフチナミ
返し
高倉三位
シメノウチニノトケキハルノフチナミハ
チトセヲマツニカゝルトヲシレ
冷泉家時雨亭叢書第七巻 平安中世私撰集より
本院の藤盛りなりけるを心有らん人に見せばやと女房申相たりければ高倉三位の御許に詠みて奉りける
前斎院帥
見せばやな色も変はらぬこの下の
君にまつが枝掛かる藤浪
返し
高倉三位
標の内に長閑けき春の藤浪は
千歳を松に掛かるとを知れ
掛詞
この下 子(式子内親王)の許、木の下
松が枝 待つ、松