Quantcast
Channel: 新古今和歌集の部屋
Viewing all 4461 articles
Browse latest View live

平家物語 平松家本 安元大火

$
0
0

同廿七日亥剋計樋口富小路火出来テ折節乾ノ風烈シク吹ケレバ大ナル車輪ノ猛(ホノホ)三町五町ヲ隔テ巽差テ○超焼行京中多ク焼ニケリ。怖何土トモ疎ナリ。或ハ良相公ノ西三条北野天神紅梅殿或ハ具平親王千種殿忠仁公染殿照宣公鴨居殿鬼殿高松殿始昔今ノ名所共廿余ヶ所、公卿ノ家十六カ所及焼ニケリ。其他殿上人大夫ノ家ハ数ヲ不知。終ハ大内吹付朱雀門ヲ始陽明待賢應田門會昌門豊樂院諸司八省朝所迄テ一時ガ中ニ灰燼ノ地トゾ成。家家之日記代々ノ文書七珍万宝乍左塵灰トソ生リニケリ。其間費ヘ如何計ゾ。人ノ焼死事数百人、牛馬ノ類イ数不知。是…略…


源氏物語 早蕨 宿木 東屋

$
0
0

早蕨

阿闍梨 君にとて数多の春を摘みしかば常を忘れぬ初蕨なり
きみにとてあまたのはるをつみしかはつねをわすれぬはつわらひなり

中君 この春は誰にか見せむ亡き人の形見に摘める峰の早蕨
このはるはたれにかみせむなきひとのかたみにつめるみねのさわらひ

匂宮 折る人の心に通ふ花なれや色には出でず下に匂へる
をるひとのこころにかよふはななれやいろにはいてすしたににほへる

薫 見る人に託言寄せける花の枝を心してこそ折るべかりけれ
みるひとにかことよせけるはなのえをこころしてこそをるへかりけれ

薫 儚しや霞の衣裁ちし間に花の紐解く折も来にけり
はかなしやかすみのころもたちしまにはなのひもとくをりもきにけり

中君 見る人も嵐に迷ふ山里に昔覚ゆる花の香ぞする
みるひともあらしにまよふやまさとにむかしおほゆるはなのかそする

薫 袖触れし梅は変はらぬ匂ひにて根込め移ろふ宿や異なる
そてふれしうめはかはらぬにほひにてねこめうつろふやとやことなる

弁尼 先立つに涙の川に身を投げば人に遅れぬ命ならまし
さきにたつなみたのかはにみをなけはひとにおくれぬいのちならまし

薫 身を投げむ涙の川に沈みても恋しき瀬々に忘れしもせじ
みをなけむなみたのかはにしつみてもこひしきせせにわすれしもせし

弁尼 人は皆急ぎ発つめる袖の浦に一人藻塩を垂るる海女かな
ひとはみないそきたつめるそてのうらにひとりもしほをたるるあまかな

中君 塩垂るる海女の衣に異なれや浮きたる波に濡るる我が袖
しほたるるあまのころもにことなれやうきたるなみにぬるるわかそて

中君大輔の君 有り経れば嬉しき瀬にも逢ひけるを身を宇治川に投げてましかば
ありふれはうれしきせにもあひけるをみをうちかはになけてましかは

中君女房 過ぎにしか恋しきことも忘れねど今日はた先づも行く心かな
すきにしかこひしきこともわすれねとけふはたまつもゆくこころかな

中君 眺むれば山より出でて行く月も世に住み詫びて山にこそ入れ
なかむるれはやまよりいててゆくつきもよにすみわひてやまにこそいれ

薫 級照るや鳰の湖に漕ぐ舟の真面ならねども逢ひ見し物を
しなてるやにほのみつうみにこくふねのまほならねともあひみしものを

宿木

薫 世の常の垣根に匂ふ花ならば心のままに折りてみましを

よのつねのかきねににほふはなならはこころのままにをりてみましを

今上帝 霜に逢へず枯れにし園の菊なれど残りの色は褪せずも有るかな
しもにあへすかれにしそののきくなれとのこりのいろはあせすもあるかな

薫 今朝の間の色にや愛でむ置く露の消えぬに掛かる花と見る見る
けさのまのいろにやめてむおくつゆのきえぬにかかるはなとみるみる

薫 よそへてぞ見るべかりける白露の契りか置きし朝顔の花
よそへてそみるへかりけるしらつゆのちきりかおきしあさかほのはな

中君 消えぬ間に枯れぬる花の儚さに遅るる露はなほぞ優れる
きえぬまにかれぬるはなのはかなさにおくるるつゆはなほそまされる

夕霧 大空の月だに宿る我が宿に待つ宵過ぎて見えぬ君かな
おほそらのつきたにやとるわかやとにまつよひすきてみえぬきみかな

中君 山里の松の蔭にもかくばかり身に沁む秋の風は無かりき
やまさとのまつのかけにもかくはかりみにしむあきのかせはなかりき

落葉宮 女郎花萎れぞ勝る朝露の如何に置きける名残なるらむ
をみなへししをれそまさるあさつゆのいかにおきけるなこりなるらむ

中君 大方に聞かましものを蜩の声恨めしき秋の暮れかな
おほかたにきかましものをひくらしのこゑうらめしきあきのくれかな

按察君 打ち渡し世に許し無き関川を見馴れ染めけむ名こそ惜しけれ
うちわたしよにゆるしなきせきかはをみなれそめけむなこそをしけれ

薫 深からず上は見ゆれど関河の下の通ひは絶ゆるものかは
ふかからすうへはみゆれとせきかはのしたのかよひはたゆるものかは

薫 徒に分けつる道の露茂み昔覚ゆる秋の空かな
いたつらにわけつるみちのつゆしけみむかしおほゆるあきのそらかな

匂宮 又人に馴れける袖の移り香を我が身に染めて恨みつるかな
またひとになれけるそてのうつりかをわかみにしめてうらみつるかな

中君 見馴れぬる中の衣と頼みしをかばかりにてやかけ離れけむ
みなれぬるなかのころもとたのみしをかはかりにてやかけはなれけむ


薫 結びける契り殊なる下紐をただ一筋に恨みやはする
むすひけるちきりことなるしたひもをたたひとすちにうらみやはする

薫 宿木と思ひ出でずは木の下の旅寝も如何に寂しからまし
やとりきとおもひいてすはこのもとのたひねもいかにさひしからまし

弁尼 荒れ果つる朽ち木の下を宿木と思ひ置きける程の悲しさ
あれはつるくちきのもとをやとりきとおもひおきけるほとのかなしさ

匂宮 穂に出でぬ物思ふらし篠薄招く袂の露繁くして
ほにいてぬものおもふらししのすすきまねくたもとのつゆしけくして

中君 秋果つる野辺の気色も篠薄仄めく風に付けてこそ知れ
あきはつるのへのけしきもしのすすきほのめくかせにつけてこそしれ

薫 天皇の挿頭に折ると藤の花及ばぬ枝に袖掛けてけり
すめらきのかさしにをるとふちのはなおよはぬえたにそてかけてけり

今上帝 万代をかけて匂はむ花なれば今日をも飽かぬ色とこそ見れ
よろつよをかけてにほはむはななれはけふをもあかぬいろとこそみれ

公達 君が為折れる挿頭は紫の雲に劣らぬ花の気色か
きみかためをれるかさしはむらさきのくもにおとらぬはなのけしきか

公達 世の常の色とも見えず雲居まで立ち上りたる藤波の花
よのつねのいろともみえすくもゐまてたちのほりたるふちなみのはな

薫 顔鳥の声も聞きしに通ふやと茂みを分けて今日ぞ尋ぬる
かほとりのこゑもききしにかよふやとしけみをわけてけふそたつぬる

東屋

薫 見し人の形代ならば身に添へて恋しき瀬々の撫物にせむ

みしひとのかたしろならはみにそへてこひしきせせのなてものにせむ

中君 御祓川瀬々に出ださむ撫物を身に添ふ影と誰か頼まむ
みそきかはせせにいたさむなてものをみにそふかけとたれかたのまむ

常陸北方 締め結ひし小萩が上も迷はぬにいかなる露をわかすぞあらまし
しめゆひしこはきかうへもまよはぬにいかなるつゆにうつるしたはそ

左近少将 宮城野の小萩がもとに知らませば露も心をわかすぞあらまし
みやきののこはきかもとにしらませはつゆもこころをわかすそあらまし

浮舟 ひたぶるに嬉しからまし世の中にあらぬ所と思はましかば
ひたふるにうれしからましよのなかにあらぬところとおもはましかは

中将君 憂き世には在らぬ所を求めても君が盛りを見る由もがな
うきよにはあらぬところをもとめてもきみかさかりをみるよしもかな

薫 絶え果てぬ清水になどか亡き人の面影をだに留めざりけむ
たえはてぬしみつになとかなきひとのおもかけをたにととめさりけむ

薫 差し止むる葎や繁き東屋の余り程降る雨注ぎかな
さしとむるむくらやしけきあつまやのあまりほとふるあまそそきかな

薫 形見ぞと見るに付けては朝露の所せきまで濡るる袖かな
かたみそとみるにつけてはあさつゆのところせきまてぬるるそてかな

弁尼 宿木は色変はりぬる秋なれど昔覚えてすめる月かな

やとりきはいろかはりぬるあきなれとむかしおほえてすめるつきかな

薫 里の名も昔ながらに見し人の面変はりせる寝屋の月影
さとのなもむかしなからにみしひとのおもかはりせるねやのつきかけ

浮舟 未だ古りぬ物には有れと君が為深き心に待つと知らなむ
またふりぬものにはあれときみかためふかきこころにまつとしらなむ

古今著聞集 治承四年大辻風の事

$
0
0

古今著聞集 巻第十七 恠異第廿六

治承四年四月大辻風の事

同四年四月二十九日未刻ばかりに、辻風ふきたりけり。

九條のかたよりおこりけるが、京中の家、或はまろび或は柱ばかり殘れる。死ぬるもの其數をしらず。

蔀遣戸さらぬ雑佛、雲の中に入りて、風に随て飛けり。

或所には雨ふり、或所には雷なり。九條坊門東洞院邊には雪も降りたりけり。

其比かゝる風たび/\ふきけれども、kのたびは第一にをびたゝしかりけり。

たびごとに、乾の方より巽へぞ吹きける。

おそろしき事いふばかりなかりけり。

方丈記 前田家本

又治承四年卯月の比、中御門京極の程より、大きなる辻風起こりて、六条辺りまで、厳めしく吹く事侍き。

三四丁を掛けて吹きあくる間に、その中に籠もれる家ども、大きなるも小さきも一つとして破れざるは無し。

さながら平に倒れたるもあり。

桁柱許り残れるもあり。門の上を吹き払ひて隣と一つになせり。

況や家の内の資財、数を尽くして空にあり。

檜皮、葺板の類は、冬の木の葉の風に乱るゝが如し。

塵を煙の如く吹き立てたれば、全て目も見えず。夥しく鳴り響む音に物言ふ声も聞こえず。彼の地獄の業の風なりとも、かばかりにぞとぞ覚ゆる。

家の損亡せるのみに非ず。是を取り繕ふ間に身を損なひ片輪付ける人、数も知らず。

この風、未の方に移り行きて多くの人の嘆きをなせり。

辻風は、常に吹くものなれど、斯かる事やある。

只事に非ず。

然るべき者の諭しかとぞ疑ひ侍し。

平家物語 中院本 大ちしんの事

$
0
0

去程にてうてきほろひてのちは、國はこ

くしにしたかひ、しゃうはりやうけのまゝ

なりしかは、上下あんとの思ひをなしたり

去程に、同しき七月九日、大地おひたゝしく

うこきて、時うつる程なり。せきけんのうち

白川のほとり、六せう寺、九ちうのとうより

はしめて、さい/\所/\のたうしや、ふつ

かく、くわうきよ、みんおく、あるひはたふれ

かたふき、あるひはやふれくつれ、またきは

一宇もなかりけり。一天くらうして、日のひ

かりも見えす、ろうせうともにきもをまと

はし、てうしゆこと/\くtましいをうし

なふ。都の内は申にをよはす、近國遠國も

又かくのことし。海かたふきて、みねをひた

し、大地さけて水をいたす。山くつれては川

をふさき、岩くたけて谷をうつむ。浦こく舟

はなみにたゝよひ、くかを行ひつめは、あし

のたてとをまとはす。りうにあらされは、

雲にも入かたく、鳥にあらされは、天をもか

けりかたし。こうすいみなきりきたらは、

たかきみねにのほりても、なとかはたす

からさるへき。たゝ心うきは、大地しんなり

けり。

…略…

もんとく天皇の御宇、さいかう三

年三月三日の大地しんには、東大寺の大

佛の御くしおちさせ給けるなり。

愚管抄 安元の大火

$
0
0

安元三年七月廿九日ニ讃岐院ニ崇徳院ト云名ヲバ宣下セラレケリ。


サテ又此年、京中大燒亡ニテ。ソノ火、大極殿ニ飛付テ燒ニケリ。コレニ依テ改元、治承トアリケリ。

愚管抄 元暦の大地震

$
0
0

元暦二年七月九日午時バカリ、ナノメナラヌ大地震アリキ。
古ノ堂ノマロバヌハナシ。
所々ノツイガキクヅレヌハナシ。
少シモヨハキ家ノヤブレヌモナシ。
山ノ根本中堂以下ユガマヌ所ナシ。
事モ、ナノメナラヌ龍王動トゾ申シ。平相國龍ニ成テ、フリタルト世ニハ申キ。
法勝寺九重塔ハアダニハタウレズ傾キテ、ヒエンハ重コトニ皆落ニケリ。

愚管抄 福原遷都

$
0
0

又治承四年六月二日忽ニ都ウツリト云事行ヒテ。
都ヲ福原ヘ遷テ行幸ナシテ。
トカク云バカリナキ事ドモニナリニケリ。乍去サテ有ベキ事ナラネバ。
又公卿僉議行ヒテ。十一月廿三日還都アリテ。少シ人モ心ヲチイテ有ケルニ。

源氏物語 浮舟 蜻蛉 手習 夢浮橋

$
0
0

浮舟
浮舟 未だ古りぬ物には有れと君が為深き心に待つと知らなむ
またふりぬものにはあれときみかためふかきこころにまつとしらなむ

匂宮 長き世を頼めても猶悲しきは只明日しらぬ命なりけり
なかきよをたのめてもなほかなしきはたたあすしらぬいのちなりけり

浮舟 心をば歎かざらまし命のみ定め無き世と思はましかば
こころをはなけかさらましいのちのみさためなきよとおもはましかは

匂宮 世に知らず惑ふべきかな先に立つ涙も道をかき暗しつつ 
よにしらすまとふへきかなさきにたつなみたもみちをかきくらしつつ

浮舟 涙をもほどなき袖に堰きかねて如何に別れを留むべき身ぞ
なみたをもほとなきそてにせきかねていかにわかれをととむへきみそ

薫 宇治橋の長き契りは朽ちせしを危ぶむ方に心騒ぐな
うちはしのなかきちきりはくちせしをあやふむかたにこころさわくな

浮舟 絶え間のみ世には危ふき宇治橋を朽ちせぬ物となほ頼めとや
たえまのみよにはあやふきうちはしをくちせぬものとなほたのめとや

匂宮 年経とも変はらむ物か橘の小島の崎に契る心は
としふともかはらむものかたちはなのこしまのさきにちきるこころは

浮舟 橘の小島の色は変はらしをこの浮舟ぞ行方知られぬ
たちはなのこしまのいろはかはらしをこのうきふねそゆくへしられぬ

匂宮 峰の雪汀の氷踏み分けて君にぞ惑ふ道は惑はず
みねのゆきみきはのこほりふみわけてきみにそまとふみちはまとはす

浮舟 降り乱れ汀に凍る雪よりも中空にてぞ我は消ぬべき
ふりみたれみきはにこほるゆきよりもなかそらにてそわれはけぬへき

匂宮 眺めやる其方の雲も見えぬまで空さへ暮るる頃の侘びしさ
なかめやるそなたのくももみえぬまてそらさへくるるころのわひしさ

薫 水勝る遠の里人如何ならむ晴れぬ長雨にかき暮らす頃
みつまさるをちのさとひといかならむはれぬなかめにかきくらすころ

浮舟 里の名を我が身に知れば山城の宇治のわたりぞいとど住み憂き
さとのなをわかみにしれはやましろのうちのわたりそいととすみうき

浮舟 かき暗し晴れせぬ峰の雨雲に憂きて世をふる身をもなさばや
かきくらしはれせぬみねのあまくもにうきてよをふるみともなさはや

浮舟 徒然と身を知る雨の小止まねば袖さへいとど水嵩勝りて
つれつれとみをしるあめのをやまねはそてさへいととみかさまさりて

薫 波越ゆる頃とも知らず末の松待つらむものと思ひけるかな
なみこゆるころともしらすすゑのまつまつらむものとおもひけるかな

匂宮 何処にか身をば捨てむと白雲の懸からぬ山も泣く泣くぞ行く
いつくにかみをはすてむとしらくものかからぬやまもなくなくそゆく

浮舟 嘆き詫び身をば捨つとも亡き影に浮き名流さむ事をこそ思へ
なけきわひみをはすつともなきかけにうきななかさむことをこそおもへ

浮舟 骸をだに憂き世の中に留めずは何処を墓と君も恨みむ
からをたにうきよのなかにととめすはいつこをはかときみもうらみむ

浮舟 後に又逢ひ見む事を思はなむこの世の夢に心惑はで
のちにまたあひみむことをおもはなむこのよのゆめにこころまとはて

浮舟 鐘の音の絶ゆる響きに音を添へて我が世尽きぬと君に伝へよ
かねのおとのたゆるひひきにねをそへてわかよつきぬときみにつたへよ

蜻蛉

薫 忍び音や君も泣くらむ甲斐も無き死出の田長に心通はば
しのひねやきみもなくらむかひもなきしてのたをさにこころかよはは

匂宮 橘の薫る辺りは時鳥心してこそ鳴くべかりけれ
たちはなのかをるあたりはほとときすこころしてこそなくへかりけれ

薫 我も又憂き古里を荒れ果てば誰宿木の蔭を偲ばむ
われもまたうきふるさとをあれはてはたれやとりきのかけをしのはむ

小宰相の君 哀れ知る心は人に遅れねど数ならぬ身に消えつつぞ経る
あはれしるこころはひとにおくれねとかすならぬみにきえつつそふる

薫 常無しとここら世を見る憂き身だに人の知るまで歎きやはする
つねなしとここらよをみるうきみたにひとのしるまてなけきやはする

薫 荻の葉に露吹き結ぶ秋風も夕べぞ分きて身には滲みける
をきのはにつゆふきむすふあきかせもゆふへそわきてみにはしみける

薫 女郎花乱るる野辺に混じるとも露の徒名を我に懸けめや
をみなへしみたるるのへにましるともつゆのあたなをわれにかけめや

中将の御許 花と言へば名こそ徒なれ女郎花なべての露に乱れやはする
はなといへはなこそあたなれをみなへしなへてのつゆにみたれやはする

弁の御許 旅寝して猶試みよ女郎花盛の色に移り移らず
たひねしてなほこころみよをみなへしさかりのいろにうつりうつらす

薫 宿貸さば一夜は寝なむ大方の花に移らぬ心なりとも
やとかさはひとよはねなむおほかたのはなにうつらぬこころなりとも

薫 有りと見て手には取られず見れば又行方も知らず消えし蜻蛉
ありとみててにはとられすみれはまたゆくへもしらすきえしかけろふ

手習

浮舟 身を投げし涙の川は早き瀬を柵かけて誰か止めし
みをなけしなみたのかはのはやきせをしからみかけてたれかととめし

浮舟 我かくて憂き世の中に廻るとも誰かは知らむ月の都に
われかくてうきよのなかにめくるともたれかはしらむつきのみやこに

元娘婿中将 化野の風に靡くな女郎花我しめ結はむ道遠くとも
あたしののかせになひくなをみなへしわれしめゆはむみちとほくとも

横川僧都妹尼君 移し植ゑて思ひ乱れぬ女郎花憂き世を背く草の庵に
うつしうゑておもひみたれぬをみなへしうきよをそむくくさのいほりに

元娘婿中将 松虫の声を訪ねて来つれどもまた荻原の露に惑ひぬ
まつむしのこゑをたつねてきつれともまたおきはらのつゆにまとひぬ

横川僧都母尼君 秋の野の露分け来たる狩衣葎茂れる宿に託つな
あきのののつゆわけきたるかりころもむくらしけれるやとにかこつな

横川僧都妹尼君 深き夜の露を哀れと見ぬ人や山の端近き宿に泊まらぬ
ふかきよのつきをあはれとみぬひとややまのはちかきやとにとまらぬ

元娘婿中将 山の端に入るまで月を眺め見む閨の板間も験ありやと
やまのはにいるまてつきをなかめみむねやのいたまもしるしありやと

横川僧都妹尼君 忘られぬ昔のことも笛竹の辛き節にも音ぞ泣かれける
わすられぬむかしのこともふえたけのつらきふしにもねそなかれける

横川僧都母尼君 笛の音に昔のことも偲ばれて帰りし程も袖ぞ濡れにし
ふえのねにむかしのこともしのはれてかへりしほともそてそぬれにし

浮舟 儚くて世に古川の憂き瀬には訪ねも行かじ二本の杉
はかなくてよにふるかはのうきせにはたつねもゆかしふたもとのすき

横川僧都妹尼君 古川の杉の本立ち知らねども過ぎにし人に寄そへてぞ見る
ふるかはのすきのもとたちしらねともすきにしひとによそへてそみる

浮舟 心には秋の夕を分かねども眺むる袖に露ぞ乱るる
こころにはあきのゆふへをわかねともなかむるそてにつゆそみたるる

元娘婿中将 山里の秋の夜深き哀れをも物思ふ人は思ひこそ知れ
やまさとのあきのよふかきあはれをもものおもふひとはおもひこそしれ

浮舟 憂き物と思ひも知らで過ぐす身を物思ふ人と人は知りけり
うきものとおもひもしらてすくすみをものおもふひととひとはしりけり

浮舟 亡きものに身をも人をも思ひつつ捨ててし世をぞ更に捨てつる
なきものにみをもひとをもおもひつつすててしよをそさらにすてつる

浮舟 限りぞを思ひなりにし世の中を返す返すも背きぬるかな
かきりそとおもひなりにしよのなかをかへすかへすもそむきぬるかな

元娘婿中将 岸遠く漕ぎ離るらむ海人舟に乗り遅れしと急がるるかな
きしとほくこきはなるらむあまふねにのりおくれしといそかるるかな

浮舟 心こそ憂き世の岸を離るれど行方も知らぬ海人の浮木を
こころこそうきよのきしをはなるれとゆくへもしらぬあまのうききを

横川僧都妹尼君 木枯らしの吹きにし山の麓には立ち隠るべき蔭だにぞ無き
こからしのふきにしやまのふもとにはたちかくるへきかけたにそなき

元娘婿中将 待つ人も有らじと思ふ山里の梢を見つつなほぞ過ぎ憂き
まつひともあらしとおもふやまさとのこすゑをみつつなほそすきうき

元娘婿中将 大方の世を背きける君なれど厭ふに寄せて身こそ辛けれ
おほかたのよをそむきけるきみなれといとふによせてみこそつらけれ

浮舟 かき暗す野山の雪を眺めても降りにし事ぞ今日も悲しき
かきくらすのやまのゆきをなかめてもふりにしことそけふもかなしき

横川僧都妹尼君 山里の雪間の若菜摘みはやし猶生ひ先の頼まるるかな
やまさとのゆきまのわかなつみはやしなほおひさきのたのまるるかな

浮舟 雪深き野辺の若菜も今よりは君が為にぞ年も摘むべき
ゆきふかきのへのわかなもいまよりはきみかためにそとしもつむへき

浮舟 袖触れし人こそ見えね花の香のそれかと匂ふ春の曙
そてふれしひとこそみえねはなのかのそれかとにほふはるのあけほの

薫 見し人は影も留まらぬ水の上に落ち添ふ涙いとど塞き敢へず
みしひとはかけもとまらぬみつのうへにおちそふなみたいととせきあへす

浮舟 尼衣変はれる身にや有りし世の形見に袖を掛けて偲ばむ
あまころもかはれるみにやありしよのかたみにそてをかけてしのはむ

夢浮橋

薫 法の師と訪ぬる道を導にて思はぬ山に踏み惑ふかな
のりのしとたつぬるみちをしるへにておもはぬやまにふみまとふかな


源氏物語和歌数

$
0
0

       帖   歌数
一     桐壺    9
二     帚木   14
三     空蝉    2
四     夕顔   19
五     若紫    25
六     末摘花  14
七     紅葉賀  17
八     花宴    8
九     葵    24
十     賢木   33
十一    花散里  4
十二    須磨   48
十三    明石   30
十四    澪標   17
十五    蓬生    6
十六    関屋    3
十七    絵合    9
十八    松風   16
十九    薄雲   10
二十    朝顔   13
二十一  少女   16
二十二  玉鬘   14
二十三  初音    6
二十四  胡蝶   14
二十五  蛍      8
二十六  常夏    4
二十七  篝火    2
二十八  野分    4
二十九  行幸    9
三十    藤袴    8
三十一  真木柱 21
三十二  梅枝   11
三十三  藤裏葉  20
三十四  若菜上  24
三十四  若菜下  18
三十五  柏木   11
三十六  横笛    8
三十七  鈴虫    6
三十八  夕霧   26
三十九  御法   12
四十    幻    26
四十一  雲隠
四十二  匂宮    1
四十三  紅梅    4
四十四  竹河   24
四十五  橋姫   13
四十六  椎本   21
四十七  総角   31
四十八  早蕨   15
四十九  宿木   24
五十   東屋   11
五十一  浮舟   22
五十二  蜻蛉   11
五十三  手習   28
五十四  夢浮橋  1
 総  計     795

式子内親王集 正治百首 雑歌

$
0
0

282 都にて雪間僅かに萌え出でし草引き結ぶ小夜の中山

みやこにてゆきまはつかにもえいてしくさひきむすふさよのなかやま 続後拾遺

 

283 荒磯の玉藻の床に仮寝して我から袖を濡らしつるかな

あらいそのたまものとこにかりねしてわれからそてをぬらしつるかな 新勅撰

 

284 都人沖津小島の浜廂久しくなりぬ涙隔てて

みやこひとおきつこしまのはまひさしひさしくなりぬなみたへたてて 新後撰

 

285 行く末は今幾夜とか岩代の岡の萱ねに枕結ばむ

ゆくすゑはいまいくよとかいはしろのをかのかやねにまくらむすはむ 新古今

 

286 松が根の雄島が磯の小夜枕いたくな濡れそ海人の袖かは

まつかねのをしまかいそのさよまくらいたくなぬれそあまのそてかは 新古今

 

287 我が宿はつまきこり行く山賤のしばしば通ふ跡ばかりして

わかやとはつまきこりゆくやまかつのしはしはかよふあとはかりして 風雅集

 

288 今は我松の柱の杉の庵に閉づべき物を苔深き袖

いまはわれまつのはしらのすきのいほにとつへきものをこけふかきそて 新古今

 

289 山の端は峰の木の葉に競ひつつ雲より降ろす小牡鹿の声

やまのははみねのこのはにきほひつつくもよりおろすさをしかのこゑ 風雅集 重複 山里は

 

290 柴の戸を人こそ訪はね足引きの山より出づるつきは

しはのとをひとこそとはねあしひきのやまよりいつるつきはまつみつ

 

291 山里は峰に絶えせぬ松の声木の葉に忍ぶ谷の下水

やまさとはみねにたえせぬまつのこゑこのはにしのふたにのしたみつ 

 

292 暁の夕付鳥ぞ哀れなる長き眠りを思ふ枕に

あかつきのゆふつけとりそあはれなるなかきねむりをおもふまくらに 新古今

 

293 鳴く鶴の思ふ心は知らねども夜の声こそ身には滲みけれ

なくつるのおもふこころはしらねともよるのこゑこそみにはしみけれ 新続古今

 

294 身の憂きを思ひ砕けば東雲の霧間に噎ぶ鴫の羽がき

みのうきをおもひくたけはしののめのきりまにむせふしきのはねかき 

 

295 儚しや風に漂ふ浪の上に鳰の浮き巣ののさても世に経る

はかなしやかせにたたよふなみのうへににほのうきすのさてもよにふる 新千載集

 

296 打ち払ひ小野の浅茅に刈る草の茂みが下に鶉立つなり

うちはらひをののあさちにかるくさのしけみかしたにうつらたつなり 風雅集

 

297 君が経む千代松風に吹き添へて竹も調ぶる声通ふなり

きみかへむちよまつかせにふきそへてたけもしらふるこゑかよふなり 

 

298 天の下恵む草木の芽もはるに限りも知らぬ御世の末々

あめのしためくむくさきのめもはるにかきりもしらぬみよのすゑすゑ 新古今

 

299 幾年の幾万代か君が代に雪月花の友を待ちけむ

いくとせのいくよろつよかきみかよにゆきはなつきのともをまちけむ 

 

300 亀の尾の岩根が上に居る鶴も心してける水の色かな

かめのをのいはねかうへにゐるたつもこころしてけるみつのいろかな 

 

301 君が代は千曲の川の細石の苔生す岩と成り尽くすまで

きみかよはちくまのかはのさされいしのこけむすいはとなりつくすまで 新続古今

式子内親王集 雖入勅撰不見家集歌 千載集 新古今和歌集

$
0
0
302 眺むれば思ひやるべき方ぞ無き春を限りの夕暮の空
なかむれはおもひやるへきかたそなきはるのかきりのゆふくれのそら 千載集

303 神山の麓に馴れし葵草引き別れてぞ年は経にける
かみやまのふもとになれしあふひくさひきわかれてそとしはへにける 千載集

304 草も木も秋の末葉は見え行くに月こそ色は変はらざりけれ
くさもきもあきのすゑははみえゆくにつきこそいろはかはらさりけれ 千載集 藐姑射の山=仙人の住む山

305 動き無く猶万代を頼むべき藐姑射の山の峰の松風
うこきなくなほよろつよをたのむへきはこやのやまのみねのまつかせ 千載集

306 儚しや枕定めぬ転た寝に仄かに迷ふ夢の通ひ路
はかなしやまくらさためぬうたたねにほのかにまよふゆめのかよひち 千載集

307 袖の色は人の問ふまでなりもせよ深き思ひの君し頼まば
そてのいろはひとのとふまてなりもせよふかきおもひをきみしたのまは 千載集

308 御手洗や影絶え果つる心地して志賀の浦地に袖ぞ濡れにし
みたらしやかけたえはつるここちしてしかのうらちにそてそぬれにし 千載集

309 故郷を一人別かるる夕べにも送る葉月の影とこそ聞け
ふるさとをひとりわかるるゆふへにもおくるはつきのかけとこそきけ 千載集

310 八重匂ふ軒端の桜移ろひぬ風より先に問ふ人もがな
やへにほふのきはのさくらうつろひぬかせよりさきにとふひともかな 新古今
311 辛きかな移ろふまでに八重桜問へども言はで過ぐる心を
つらきかなうつろふまてにやへさくらとへともいはてすくるこころを 新古今 惟明親王

312 儚くて過ぎにし方を数ふれば花に物思ふ春ぞ経にける
はかなくてすきにしかたをかそふれははなにものおもふはるそへにける 新古今 重複

313 さりともと待ちし月日ぞ移りゆく心の花の色に任せて
さりともとまちしつきひそうつりゆくこころのはなのいろにまかへて 新古今

314 夕立の雲も止まらぬ夏の日の斜く山に蜩の声
ゆふたちのくももとまらぬなつのひのかたふくやまにひくらしのこゑ 新古今

315 窓近き竹の葉荒ぶ風の音にいとど短き転た寝の夢
まとちかきたけのはすさふかせのおとにいととみしかきうたたねのゆめ 新古今

316 千度打つ砧の音に夢覚めて物思ふ袖の露ぞくだくる
ちたひうつきぬたのおとにゆめさめてものおもふそてのつゆそくたくる 新古今

317 風寒み木の葉晴ゆく夜な夜なに残る隈なき閨の月影
かせさむみこのははれゆくよなよなにのこるくまなきねやのつきかけ 新古今

318 今はただ心の外に聞く物を知らず顔なる荻の上風
いまはたたこころのほかにきくものをしらすかほなるをきのうはかせ 新古今

319 玉の緒よ絶えなば絶えね長らへば忍ぶることの弱りもぞする
たまのをよたえなはたえねなからへはしのふることのよはりもそする 新古今

320 忘れては打ち嘆かるる夕べかな我のみ知りて過ぐる月日を
わすれてはうちなけかるるゆふへかなわれのみしりてすくるつきひを 新古今

式子内親王集 雖入勅撰不見家集歌 新勅撰 続後撰

$
0
0
329 如何にせむ夢路にだにも行きやらぬ虚しき床の手枕の袖
いかにせむゆめちにたにもゆきやらぬむなしきとこのたまくらのそて 新勅撰

330 誰が垣根そことも知らぬ梅が香の夜半の枕に慣れにけるかな
たかかきねそこともしらぬむめかかのよはのまくらになれにけるかな 新勅撰

331 吹き結ぶ瀧は氷に閉ぢ果てて松にぞ風の声は惜しまぬ
ふきむすふたきはこほりにとちはててまつにそかせのこゑはをしまぬ 新勅撰

332 消ち難き人の思ひに身を変へて焔にさへや立ち混じるらむ
けちかたきひとのおもひにみをかへてほのほにさへやたちましるらむ 新勅撰

333 故郷の春を忘れぬ八重桜此や見し世に変はらざるらむ
ふるさとのはるをわすれぬやへさくらこれやみしよにかはらさるらむ 続後撰
返し 八重桜折知る人のなかりせば見し世の春は如何であはまし

334 今は只風をも言はじ吉野川岩越す花の柵もがな
いまはたたかせをもいはしよしのかはいはこすはなのしからみもかな 続後撰 重複

335 晩稲干す山田の秋の仮枕習はぬ程の袖の露かな
おしねほすやまたのあきのかりまくらならはぬほとのそてのつゆかな 続後撰

336 人訪はぬ都の他の雪の中に春は隣と近づきにけり
ひととはぬみやこのほかのゆきのうちにはるはとなりとちかつきにけり 続後撰 重複 うちに→270うちも

337 君故と言ふ名は立てじ消え果てむ夜半の煙の末まとも見よ
きみゆゑといふなはたてしきえはてむよはのけふりのすゑまともみよ 続後撰

338 知るらめや心は人に月草の染めのみ勝る思ひ在りとは
しるらめやこころはひとにつきくさのそめのみまさるおもひありとは 続後撰

339 如何にせむ岸打つ波の掛けてだに知られぬ恋ひに身を砕きつつ
いかにせむきしうつなみのかけてたにしられぬこひにみをくたきつつ 続後撰

340 君が名に思へば袖を包めども知らじよ涙漏らば漏るとて
きみかなにおもへはそてをつつめともしらしよなみたもらはもるとて 続後撰

341 影馴れて宿る月かな人知れず夜な夜な騒ぐ袖の湊に
かけなれてやとるつきかなひとしれすよなよなさわくそてのみなとに 続後撰

342 人知れず物思ふ袖に比べばや満ち来る潮の浪の下草
ひとしれすものおもふそてにくらへはやみちくるしほのなみのしたくさ 続後撰

343 秋は来ぬ行方も知らぬ歎きかな頼めし事は木の葉降りつつ
あきはきぬゆくへもしらぬなけきかなたのめしことはこのはふりつつ 続後撰

344 筆跡に過ぎにし事を留めずは知らぬ昔に如何で逢はまし
ふてのあとにすきにしことをととめすはしらぬむかしにいかてあはまし 続後撰

式子内親王集 雖入勅撰不見家集歌 続古今 続拾遺 新後撰 玉葉集

$
0
0
345 秋来ては幾日も有らじ吹く風の身に沁むばかり成りにけるかな
あききてはいくかもあらしふくかせのみにしむはかりなりにけるかな 続古今

346 葦鴨の払ひもあへぬ霜の上に砕けて掛かる薄氷かな
あしかものはらひもあへぬしものうへにくたけてかかるうすこほりかな 続古今 重複

347 狩衣乱れにけらし梓弓引馬の野辺の萩の下露
かりころもみたれにけりなあつさゆみひくまののへのはきのあさつゆ 続古今 重複 萩の朝露→246萩の下露

348 霰降る後の笹原節侘びて更に都を夢にだに見ず
あられふるのちのささはらふしわひてさらにみやこをゆめにたにみす 続古今 重複

349 細石の中の思ひの打ち付けに燃ゆとも人に知られぬるかな
さされいしのなかのおもひのうちつけにもゆともひとにしられぬるかな 続古今

350 尋ぬればそことも言はず成りにけり頼めし野辺のもづの草茎
たつぬれはそこともいはすなりにけりたのめしのへのもすのくさくき 続古今

351 辛くともさてしも果てし契りしに有らぬ心も定めなければ
つらくともさてしもはてしちきりしにあらぬこころもさためなけれは 続古今

352 君を待つみず知らざりし古の恋しきをさへ歎きつるかな
きみをまつみすしらさりしいにしへのこひしきをさへなけきつるかな 続古今

353 吹く風も長閑けき御代の春にこそ心と花の散るは見えけれ
ふくかせものとけきみよのはるにこそこころとはなのちるはみえけれ 続拾遺

354 結ぶべき末も限らじ君が代に露の積もれる菊の下水
むすふへきすゑもかきらしきみかよにつゆのつもれるきくのしたみつ 続拾遺

355 高砂の尾上の霞立ちぬれど猶降り積もる松の白雪
たかさこのをのへのかすみたちぬれとなほふりつもるまつのしらゆき 新後撰 他人の歌の誤入

356 露のみに結べる罪は重くとも漏らさじ物を花の台に
つゆのみにむすへるつみはおもくとももらさしものをはなのうてなに 新後撰

357 住み慣れし跡を忍ぶる嬉しさに漏らさず掬ふ身とは知らずや
すみなれしあとをしのふるうれしさにもらさすすくふみとはしらすや 新後撰

358 然らでだに身に沁む秋の夕暮に松を払ひて風ぞ過ぐなる
さらてたにみにしむあきのゆふくれにまつをはらひてかせそすくなる 玉葉集

359 出でて来し都は雲に隔たりぬ末も霞の幾重なるらむ
いててこしみやこはくもにへたたりぬすゑもかすみのいくへなるらむ 玉葉集

360 今はとて影を隠さむ夕べにも我をば送れ山の端に月
いまはとてかけをかくさむゆふへにもわれをはおくれやまのはにつき  重複

式子内親王集 雖入勅撰不見家集歌 続千載 続後拾遺 風雅 新千載 新拾遺 新後拾遺 新続古今

$
0
0
361 花を待つ面影見ゆる曙は四方の梢に薫る白雲
はなをまつおもかけみゆるあけほのはよものこすゑにかをるしらくも 続千載

362 荒れにけり伏見の里の浅茅原虚しき露の掛かる袖かな
あれにけるふしみのさとのあさちはらむなしきつゆのかかるそてかな 続千載

363 冬来ては幾日になりぬ槙の屋に木の葉時雨の絶ゆる夜ぞ無き
ふゆきてはいくかになりぬまきのやにこのはしくれのたゆるよそなき 続後拾遺

364 寂しさは慣れぬる物ぞ柴の戸を甚くな訪ひぞ峰の木枯らし
さひしさはなれぬるものそしはのとをいたくなとひそみねのこからし 続後拾遺

365 打ち払ひ小野の浅茅に刈る草の茂みが下に鶉立つなり
うちはらひをののあさちにかるくさのしけみかすゑにうつらたつなり 風雅集 重複 しけみかすゑに→269しけみかしたに

366 著きかな浅茅色付く庭の面に人目枯るべき冬の近さは
しるきかなあさちいろつくにはのおもにひとめかるへきふゆのちかさは  252重複

367 山風は峰の木の葉に競ひつつ雲より降ろす小牡鹿の声
やまかせはみねのこのはにきほひつつくもよりおろすさをしかのこゑ 風雅集 初句のみ異なる重複

368 君故に始めも果ても限りなき浮き世を廻る身とも成りなむ
きみゆゑやはしめもはてもかきりなきうきよをめくるみともなりなむ 新千載集

369 我の身は哀れとも言はじ誰も見よ夕露掛かる大和撫子
われのみはあはれともいはしたれもみよゆふつゆかかるやまとなてしこ 新拾遺

370 我が宿の籬に籠むる秋の色をさながら霜に知られずもがな
わかやとのまかきにこむるあきのいろをさなからしもにしられすもかな 新拾遺

371 玉の井の氷の上に見ぬ人や月をば秋の物と言ひけむ
たまのゐのこほりのうへにみぬひとやつきをはあきのものといひけむ 新後拾遺

372 自づから逢ふ人有らば言伝よ宇津の山辺を越え侘びぬとも
おのつからあふひとあらはことつてようつのやまへをこえわひぬとも 新後拾遺

373 眺むれば見ぬ古の春までも面影薫る宿の梅枝
なかむれはみぬいにしへのはるまてもおもかけかをるやとのむめかえ 新続古今

374 此も又有りて無き世と思ふをぞ憂き折節の慰めにする
これもまたありてなきよとおもふをそうきをりふしのなくさめにする 新続古今

式子内親王集 その他補遺

$
0
0
375 然りともと頼む心は神さびて久しくなりぬ賀茂の瑞垣
さりともとたのむこころはかみさひてひさしくなりぬかものみつかき 千載集

376 ふくるまでながむればこそ悲しけれ思ひもいれじ秋の夜の月
ふくるまてなかむれはこそかなしけれおもひもいれしあきのよのつき 新古今

377 生きてよも明日まで人はつらからじこの夕暮を問はばとへかし
いきてよもあすまてひとはつらからしこのゆふくれをとははとへかし 新古今

378 秋こそあれ人は訪ねぬ松の戸をいくへも閉ぢよ蔦の紅葉葉
あきこそあれひとはたつねぬまつのとをいくへもとちよつたのもみちは 新勅撰

379 如何にせむ恋ぞ死ぬべき逢ふまでと思ふに掛かる命ならずば
いかにせむこひそしぬへきあふまてとおもふにかかるいのちならすは 続後撰

380 静かなる庵に掛かる藤の花待ちつる雲の色かとぞ見る
しつかなるいおりにかかるふちのはなまちつるくものいろかとそみる 玄玉集

381 誰と無く空に昔ぞ偲ばるる花橘に風過ぐる夜は
たれとなくそらにむかしそしのはるるはなたちばなにかせすくるよは 玄玉集

375 然りともと頼む心は神さびて久しくなりぬ賀茂の瑞垣
さりともとたのむこころはかみさひてひさしくなりぬかものみつかき 千載集

376 ふくるまでながむればこそ悲しけれ思ひもいれじ秋の夜の月
ふくるまてなかむれはこそかなしけれおもひもいれしあきのよのつき 新古今

377 生きてよも明日まで人はつらからじこの夕暮を問はばとへかし
いきてよもあすまてひとはつらからしこのゆふくれをとははとへかし 新古今

378 秋こそあれ人は訪ねぬ松の戸をいくへも閉ぢよ蔦の紅葉葉
あきこそあれひとはたつねぬまつのとをいくへもとちよつたのもみちは 新勅撰

379 如何にせむ恋ぞ死ぬべき逢ふまでと思ふに掛かる命ならずば

いかにせむこひそしぬへきあふまてとおもふにかかるいのちならすは 続後撰

380 静かなる庵に掛かる藤の花待ちつる雲の色かとぞ見る
しつかなるいおりにかかるふちのはなまちつるくものいろかとそみる 玄玉集

381 誰と無く空に昔ぞ偲ばるる花橘に風過ぐる夜は
たれとなくそらにむかしそしのはるるはなたちばなにかせすくるよは 玄玉集

式子内親王 長秋草 藤原俊成贈答歌

$
0
0
これらを思ひがけず前齋院の御そに、人の伝へ御覧ぜさせければ

382 時の間の夢幻になりにけむ久しくなれし契りと思へど
ときのまのゆめまほろしになりにけむひさしくなれしちぎりとおもへと

383 限りなく深き別れの悲しさは思ふ袂も色変はりけり
かきりなくふかきわかえのかなしさはおもふたもともいろかはりけり

384 今は只寝られぬいをや歎くらむ夢路ばかりに君をたどりて
いまはたたぬられぬいをやなけくらむゆめちはかりにきみをたとりて

385 雲の果て波間を分けて幻も伝ふばかりの歎きなるらむ
くものはてなみまをわけてまほろしもつたふはかりのなけきなるらむ

386 秋来ぬと荻の葉風に知られても春の別れや驚かるらむ
あききぬとおぎのはかせにしられてもはるのわかれやおとろかるらむ

387 歎きつつそれと行方を分かぬだに悲しきものを夕暮の雲
なけきつつそれとゆくへをかかぬたにかなしきものをゆふくれのくも

388 幾年も別れの床に起き臥して同じ蓮の露を待ち見よ
いくとしもわかれのとこにおきふしておなしはちすのつゆをまちみよ

389 面影に聞くも悲しき草の原分けぬ袖さへ露ぞ零るる
おもかけにきくもかなしきくさのはらわけぬそでさへつゆそこほるる

390 物言はぬ別れのいとど悲しさは映す姿も甲斐ぞなかりし
ものいはぬわかれのいととかなしさはうつすすがたもかひそなかりし

391 道変はる別れはさても慰まじ珠の行方をそこと告ぐとも
みちかはるわかれはさてもなくさまじたまのゆくへをそことつくとも

392 身に滲みて音に聞くだに露けきは別れの庭を払ふ秋風
みにしみておとにきくたにつゆけきはわかれのにはをはらふあきかせ

御返しに 俊成
色深き言の葉贈る秋風に蓬の庭の露ぞ散り添ふ

式子内親王 三百六十番歌合

$
0
0
三百六十番歌合

393 梅の花香をのみ送る春の夜は心幾重の霞涌くらむ
むめのはなかをのみをくるはるのよはこころいくへのかすみわくらむ

394 我が宿は立ち枝の梅の咲きしより誰とも無しに人ぞ待たるる
わかやとはたちえのむめのさきしよりたれともなしにひとそまたるる

395 春雨は降るともなくて青柳の糸に貫く玉ぞ数添ふ
はるさめはふるともなくてあおやきのいとにつらぬくたまそかすそふ

396 花故に今日ぞ踏み見ることしあれば心に鳴らすみ吉野の山
はなゆゑにけふそふみみることしあれはこころにならすみよしののやま

397 何となく心細きは山の端に横雲渡る春の曙
なにとなくこころほそきはやまのはによこくもわたるはるのあけほの

398 待ち待ちて聞くかとすれば郭公声も姿も雲に消えぬる
まちまちてきくかとすれはほとときすこゑもすかたもくもにきえぬる

399 蝉の声未だ夏深きみ山辺に秋を込めたる松風ぞ吹く
せみのこゑまたなつふかきみやまへにあきをこめたるまつかせそふく

400 御禊して川辺涼しき浪の上にやがて秋立つ心こそすれ
みそきしてかわへすすしきなみのうえにやかてあきたつこころこそすれ

401 夕間暮そこはかとなき空に只哀れを秋の見せけるものを
ゆふまくれそこはかとなきそらにたたあはれをあきのみせけるものを

402 長らへば如何はすべき秋を経て哀れを添ふる月の影かな
なからへはいかかはすへきあきをへてあはれをそふるつきのかけかな

403 眺めても思へば悲し秋の月何れの年の夜半までか見む
なかめてもおもへはかなしあきのつきいすれのとしのよはまてかみむ

404 うら枯るる庭の浅茅にかつ積もる木の葉かき分け誰か訪ふべき
うらかるるにはのあさちにかつつもるこのはかきわけたれかとふへき

405 難波潟葦辺をさして漕ぎ行けばうら悲しかる鶴の一声
なにはかたあしへをさしてこきゆけはうらかなしかるつるのひとこゑ

406 引き結ぶ草の鎖しの儚きに心して吹け木枯らしの風
ひきむすふくさのとさしのはかなきにこころしてふけこからしのかせ

407 古里の真木の板屋に降る霰音づるるしも寂しかりけり
ふるさとのまきのいたやにふるあられおとつるるしもさひしかりけり

408 遠ざかる都の空を眺むれば袂に他所の月ぞ宿れる
とほさかるみやこのそらをなかむれはたもとによそのつきそやとれる

(終了)

新古今和歌集 巻第十七 雑歌中 復職

$
0
0

第十七 雜歌中

冬の頃大將はなれて歎くこと侍りける明くる年右大臣になりて奏し侍りける 東三條入道前攝政太政大臣

かかるせも

  ありけるものを宇治川の

 絶えぬ

   ばかりも歎き

        けるかな

読み:かかるせもありけるものをうじがわのたえぬばかりもなげきけるかな 隠

意訳:このように官位を復帰することもありましたのに、ずーっと私の氏は絶えてしまうのかと嘆いておりました

作者:藤原兼家ふじわらのかねいえ929〜990師輔の子。東三条殿、法興院殿と呼ばれた。道綱母の夫。 兄兼通と不仲だったため、貞元二年(977年)右大臣を免ぜられていたが、兼通が死後の翌年十月に右大臣に任じられていた。宇治川と氏の掛詞。

歌枕名寄 新古今注

新古今和歌集 巻第三 宇治の鵜飼舟

$
0
0

第三 夏歌


攝政太政大臣家百首歌合に鵜河をよみ侍りける 前大僧正慈圓


鵜飼舟


  あはれとぞ見る


 もののふのやそ宇治川の


   夕闇のそら



読み:うかいぶねあわれとぞみるもののふのやそうじがわのゆうやみのそら 隠


意訳:鵜飼舟をしみじみと見入ってしまいます。(もののふのやそ)宇治川の夕闇の空の中でかがり火だけが揺らめいていて。


作者:藤原兼家ふじわらのかねいえ929〜990師輔の子。東三条殿、法興院殿と呼ばれた。道綱母の夫。 兄兼通と不仲だったため、貞元二年(977年)右大臣を免ぜられていたが、兼通が死後の翌年十月に右大臣に任じられていた。宇治川と氏の掛詞。


六百番歌合。八代抄、歌枕名寄、新古今抄、新古今注、九代抄。

新古今和歌集 巻第二 春歌下 柴舟

$
0
0

第二 春歌下


五十首歌奉りし時 寂蓮法師


   暮れて行く


 春のみなとは知らねども


霞に落つる宇治の


           しば舟



読み:くれてゆくはるのみなとはしらねどもかすみにおつるうじのしばふね 隠


意訳:暮れてゆく春の行き着く先はしらないけれど、霞の中に落ちて行くように下る宇治の柴を積んだ舟の行き先はわかります。


作者:じゃくれん1139?〜1202俗名藤原定長。醍醐寺阿闍利俊海の子叔父の俊成の養子となり、新古今和歌集の撰者となったが、途中没。


老若五十首歌合。八代抄、歌枕名寄、美濃、新古今集聞書、新古今抄、宗長、九代抄。


Viewing all 4461 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>