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Channel: 新古今和歌集の部屋
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西行水探究

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都名所圖會 第一に
西行水は三條坊門室町の東にあり。(洛中の名水なり。西行上人此地に住居し
                  此井は楊枝を以て掘出すなりとぞ)
と有り、【九里】を探して三千里様が西行水 楊枝を以って…で御紹介された地図を元に現在地での西行水位置を推定する。

1 親ラン上人の地
浄土真宗の親鸞の旧跡は、今の浄土真宗本願寺派の双光山明福寺の説明に、「当寺の起源は、近江源氏の流れを汲む青地氏に始まる。青地左衛門尉源頼賢は近江国栗太郡青地庄(現在の草津市青地町)の領主であった。…頼賢より四代目に当たる領主の弟浄祐が、慶長四年(一五九九年)二月、京都の三條坊門万里小路東(現在地)に社基を移し一宇を建立した。…現在の地に開基した由来は、親鸞聖人敬慕の念厚く聖人御一家が関東から移住し御往生されるまで二十七年余の御住坊が、京都旧左京の押小路南万里小路東であったことから、そのもっとも近い隣接地に社基を懇請し、成就した。」と有り、この付近が親鸞の住居跡の近隣となる。




親鸞の住居地については、弟の寺に住まいして布教活動を行ったと有り、御池中学校、おいけあした保育園前に見真大師(親鸞)遷化之舊跡と有り、虎石と親鸞が名付けた石があったと有る。現在の虎石町の由来のようである。


2 等持寺
等持寺は、足利尊氏が室町幕府を開いた邸宅跡を寺院としたもので、尊氏は、三つの寺の建立を発願したが果たせず、寺名に三つの寺の字を入れたと伝承されている。実際は、期せずして敵対した弟の発願の寺とも言われている。
等持寺は、応仁の乱で灰燼となり、北区の別院に統合された。
その跡地には、足利尊氏邸等持寺跡碑が有る。


御池通の反対には、尊氏が勧請した御所八幡神社が残されている。


3 二条殿及び龍躍池
後鳥羽院が造営した押小路殿は、承久の変の後、九条道家が所有し、息子良実が相続し、五摂関家の二条家となった。
跡地は、龍池小学校となり、今の漫画ミュージアムとなっている。龍池は龍躍池の名残とのことである。


公益財団法人京都市埋蔵文化財研究所が調査した押小路殿・二条殿の庭園によると発掘されたのは、二つの井戸とのことでは有るが、これが西行水とは言い切って居ない。

4 円福寺
御池通の両替町通と室町通、衣笠通の間には、龍池町と円福寺町が有る。現在は寺院は無い。


5 西行水の推定
kunorikunori様の紹介した地図によると、通を遮って龍躍池の流れが有る。
一番最初の写真の場所は、ほんの少し他より低くなっている。地下鉄を通し、土地を整地しても池跡は地盤沈下を起こしやすい。街灯も若干傾いている。
つまり、ここが龍躍池の端と見て良い。
全ての位置が、古地図と合致する事から、ここの南に西行水があったと見て良い。

鵲の橋 定家拾遺愚草

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拾遺愚草
 花鳥各十二首
  鵲
長き夜に羽をならぶる契りとて秋待ち渡る鵲の橋

ながきよにはねをならぶるちきりとてあきまちわたるかささぎのはし

隠岐本の諸本

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隠岐本新古今和歌集と研究(後藤重郎著昭和47年?)「三、隠岐本系諸本をめぐって」による隠岐本の諸本(冷泉家時雨亭文庫蔵を加えた。)

一、二十巻全部に符号がある本
宮内庁書陵部蔵鷹司城南館旧蔵本…鷹甲
呉文炳博士蔵吉田幸一博士旧蔵明応二年慶祐書写本…慶
小宮堅次郎氏蔵本…小
大島雅太郎氏旧蔵老比丘本…老
武田祐吉博士蔵柳瀬福市氏旧蔵本…柳
武田祐吉博士蔵一本…武
武田祐吉博士蔵近藤盛行旧蔵本…近
藤井隆氏蔵某氏蔵本校合本…藤

二、一部に符号のある本
天理図書館蔵烏丸家所伝本…天
宮内庁書陵部蔵烏丸光栄書写本…烏
宮内庁書陵部蔵嘉永書写本…嘉
宮内庁書陵部蔵合点本…合
穂久邇文庫蔵伝二条為氏書写本…穂乙
春日政治博士蔵一本…春
猪熊信男氏蔵本…猪
後藤重郎蔵一本…後
宮内庁書陵部蔵永録七年書写本…永
大東急記念文庫蔵古梓堂文庫旧蔵本…大
宮内庁書陵部蔵鷹司城南館蔵本乙…鷹乙
中田剛直氏蔵伝後小松院宸翰本…中
久曽神昇博士蔵断簡後藤重郎蔵断簡…久断・後断
正宗文庫蔵本…正

三、残された歌のみを記してゐる本
宮内庁書陵部蔵一本…宮甲
冷泉家時雨亭文庫蔵※…冷

四、奥書から隠岐本系に属すると考えられるが、前記の諸本とは著しく異なるもの
後藤重郎蔵坂上某氏旧蔵本…坂
後藤重郎蔵久邇宮家旧蔵本…久
宮内庁書陵部蔵一本…宮乙

五、本文には一見隠岐本を思わせる性格の符号が記されているが、前記一、二、三の諸本と比較するに、事実は相違し、奥書中関連記事もなく、隠岐抄序も有してゐないもの。
谷山茂博士蔵吉沢義則博士旧蔵永録三年書写本…谷永
東京大学図書館蔵有栖川宮家寄贈本…有

六、その他

隠岐本異本の分類

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異本の分類
後藤重郎博士の隠岐本新古今和歌集の研究 隠岐本系諸本をめぐってによると、「符号に関し分類すると次の如くである。」(179~180頁)
(A)符号をつけた歌による分類
a 残された歌・除かれた歌両者に符号をつけた本
 鷹甲・天・嘉・鳥
b 残された歌に符号をつけた本
 慶・小・合・穂乙・春・猪
c 除かれた歌に符号をつけた本
 老・柳・武・近・藤・後・永・大・鷹乙・中・久断・後断・正
(B) 符号の種類による分類
d \の符号をつけた本
 鷹甲・慶・小・老・藤・天・烏・嘉・合・穂乙・春・猪・後・永・大・鷹乙・中
e ○の符号をつけた本
 柳・武・近
f √の符号をつけた本
 久断・後断・正

源氏物語と新古今和歌集 しのぶのみだれ 帚木

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帚木
 まだ中将などにものし給しときは、内にのみさぶらひようし給て、大殿には絶え/ヾまかで給ふ。しのぶのみだれやとうたがひきこゆる事もありしかど、さしもあだめきめなれたるうちつけのすき/ヾしさなどはこのましからぬ御ほんじやうにて、まれには、あながちにひきたがへ、心づくしなることを御心におぼしとゞむるくせなむあやにくにて、さるまじき御ふるまひもうちまじりける。


第十一  戀歌一
  女に遣はしける
           在原業平朝臣
春日野の若紫のすりごろもしのぶのみだれかぎり知られず

源氏物語と新古今和歌集 ははき木 帚木

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帚木

君は、いかにたばかりなさむと、またおさなきをうしろめたくまちふし給へるに、ふようなるよしをきこゆれば、あさましくめづらかなりける心のほどを、身もいとはづかしくこそなりぬれと、いと/\おしき御けしき也。とばかりものものたまはず。いたくうめきてうしとおぼしたり。

はゝき木の心をしらでその原のみちにあやなくまどひぬるかな

 きこえん方こそなけれとの給へり、女も、さすがにまどろまざりければ、

かずならぬふせ屋におふる名のうさにあるにもあらずきゆるはゝ木ゝ

と聞こえたり。こぎみ、いと/\おしさに、ねぶたくもあらでまどひありくを、人あやしとみるらんとわび給ふ。


第十一  戀歌一
 平定文家歌合に    坂上是則
その原やふせやに生ふる帚木のありとは見えて逢はぬ君かな

源氏物語と新古今和歌集 海人の子なれば 夕顔

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夕顔

つきせずへだてたまへるつらさに、あはさじとおもひつるものを、いまだになのりし給へ。いとむくつけし。との給へどあまの子なれば。とてさすがにうちとけぬさまいとあひだれたり。
よし、これも我からめなり。とうらみ、かつはかたらひくらし給。


第十八  雜歌下
  題しらず       よみ人知らず
白波の寄する渚に世をすぐす海士の子なれば宿もさだめず

源氏物語と新古今和歌集 朧月夜ににるものぞなき 花宴

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花宴

 かやうにて世中のあやまちはするぞかしと思ひて、やをらのぼりてのぞき給。
人はみなねたるべし、いとわかうおかしげなるこゑの、なべての人とは聞こえぬ
朧月夜ににるものぞなき
とうちずして、こなたざまにはくるものか。いとうれしくて、ふと袖をとらへたまふ。
女、おそろしと思へるけしきにて、
あなむくつけ。こはたこそ。との給へど、
なにか、うとましきとて、

ふかき夜のあはれをしるもいる月のおぼろけならぬ契とぞおもふ

とて、やをらいだきおろして、とはをしたてつ。あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうおかしげなり。わなゝく/\、こゝに、人とのたまへど、

まろはみな人にゆるされたれば、めしよせたりとも、なむでう事かあらん。たゞしのびてこそとの給ふこゑに、このきみなりけり、とききさだめて、いさゝかなぐさめけり。


第一   春歌上
  文集嘉陵春夜詩不明不暗朧朧月といへることをよめる
                大江千里
照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき

源氏物語と新古今和歌集 押し上げ方の 憂きひとしもぞ 葵、賢木

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なに事につけても、みまさりはかたき世なめるを、つらき人しもこそと、あはれにおぼえ給人の御心ざまなる。つれながら、さるべきおり/\のあはれをすぐし給はぬ、これこそかたみになさけもみはつべきわざなれ、なほゆへづきよしづきて、人めにみゆるばかりなるは、あまりのなむもいできけり、たいのひめ君をさはおほしたてじ、とおぼす。つれ/ヾにて恋しと思らむかし、とわするゝおりなれど、たゞめおやなき子をおきたらむ心ちして、みぬほどうしろめたく、いかゞ思ふらむとおぼえぬぞ心やすきわざなりける。


賢木

 もみぢやう/\いろづきわたりて、秋の野のいとなまめきたるなどみ給て、ふるさともわすれぬべくおぼさる。ほうしばらのざえあるかぎり、めしいでゝ、ろむぎせさせてきこしめさせ給。所からに、いとゞ世中のつねなさをおぼしあかしても、なをうき人しもぞとおぼしいでらるゝおしあけ方の月影に、ほうしばらのあかたてまつるとて、から/\とならしつゝ、きくの花、こきうすきもみぢなど、おりちらしたるもはかなげなれど、このかたのいとなみは、この世もつれ/ヾならず、のちの世はたたのもしげなり。


第十四  戀歌四
  題しらず     よみ人知らず
天の戸をおしあけがたの月見れば憂き人しもぞ戀しかりける

源氏物語と新古今和歌集 をくれさきだつ 葵、柏木、御法

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君もたび/\鼻うちかみて、

をくれさきだつほどのさだめなさは、世のさがとみ給へしりながら、さしあたりておぼえ侍心まどひは、たぐひあるまじきわざとなむ。院にも、ありさまそうし侍らむに、おしはからせ給てむ。ときこえ給。さらば、時雨のひまなく侍めるを、暮ぬほどに。とそゝのかしきこえ給。


柏木

よの中をかへりみすまじう思ひ侍しかど、なをまどひさめがたきものはこのみちのやみになん侍ければ、をこなひもけだひして、もしをくれさきだつみちの、だうりのまゝならでわかれなば、やがてこのうらみもやかたみにのこらむとあぢきなさに、このよのそしりをばしらで、かくものし侍。ときこえ給。御かたちことにても、なまめかしうなつかしきさまにうちしのびやつれ給て、うるはしき御ほうぶくならず、すみぞめの御すがたあらまほしうきよらなるも、うらやましくみたてまつり給。


ひさしうわづらひ給へるほどよりは、ことにいたうもそこなはれ給はざりけり。つねの御かたよりも、中ゝまさりてなみえ給。との給ものから、涙おしのごひて、をくれさきだつへだてなくとこそちぎりきこえしか。いみじうもあるかな。こ の御心ちのさまを、なに事にてをもり給とだにえきゝわき侍らず。かくしたしきほどながら、おぼつかなくのみなどの給に、


もやのひさしにおましよそひていれ奉る。をしおなべたるやうに人々のあへしらひきこえむはかたじけなきさまのし給へれば、みやす所ぞたいめし給へる。いみじきことを思ひ給へなげく心は、さるべき人々にもこえて侍れど、かぎりあれば、きこえさせやるかたなうて、よのつねになり侍にけり。いまはの程に、の給をく事侍しかば、をろかならずなむ。たれものどめがたきよなれど、をくれさきだつほどのけぢめには思ひ給へをよばむにしたがひて、ふかき心のほどをも御らんぜられにしかなとなん。神わざなどのしげきころをひ、わたくしの心ざしにまかせて、つく/ヾとこもり侍らむもれいならぬ事なりければ、たちながらはた、中々にあかず思ひ給へらるべうてなん、ひごろをすぐし侍にける。おとゞなどの心をみだり給さま、みきゝ侍につけても、おやこのみちのやみをばさるものにて、かゝる御中らひのふかくおもひとゞめ給けん程をおしはかりきこえさするに、いとつきせずなん。とて、しば/\おしのごひはなうちかみ給。あざやかにけたかきものから、なつかしうなまめいたり。

御法

ちじのおとゞ、あはれをもおりすぐし給ぬ御心にて、かくよにたぐひなくものし給人のはかなくうせ給ぬることを、くちおしくあはれにおぼして、いとしば/\とひきこえ給。むかし大將の御はゝうせ給へりしもこの比のことぞかし、とおぼしいづるに、いと物がなしく、そのおり、かの御身をおしみきこえ給し人のおほくもうせ給にけるかな、をくれさきだつほどなき世なりけりや、などしめやかなる夕ぐれにながめ給ふ。


宿木

 人のうへにて、あいなくものをおぼすめりしころの空ぞかしと思給へいづるに、いつと侍らぬなるにも、秋の風は身にしみてつらくおぼえ侍て、げにかのなげかせ給めりしもしるき世の中の御ありさまを、ほのかにうけたまはるも、さま/ヾになんときこゆればとある事もかゝることも、ながらふればなほるやうもあるを、あぢきなくおぼししみけんこそ、我あやまちのやうになをかなしけれ。この比の御ありさまは、何か、それこそよのつねなれ。されど、うしろめたげにはみえきこえざめり。いひても/\ 、むなしき空にのぼりぬるけぶりのみこそ、たれものがれぬ事ながら、をくれさきだつほどは、猶いといふかひなかりけり。とても、又なき給ぬ。



第八   哀傷歌
題しらず          僧正遍昭
末の露もとの雫や世の中のおくれさきだつためしなるらむ

源氏物語と新古今和歌集 馴れはまさらで 葵

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 このひめ君を、いまゝでよ人もその人ともしりきこえぬも、物げなきやう也、ちゝ宮にしらせきこえてむ、とおもほしなりて、御もぎの事、人にあまねくはの給はねど、なべてならぬさまにおぼしまうくる御よういなど、いとありがたけれど、 女君はこよなううとみきこえ給て、年ごろよろづにたのみきこえて、まつはしきこえけるこそあさましき心なりけれ、とくやしうのみおぼして、さやかにもみあはせたてまつり給はず、きこえたはぶれ給も、くるしうわりなき物におぼしむすぼほれて、ありしにもあらずなり給へる御ありさまを、おかしうもいとおしうもおぼされて、
年ごろおもひきこえしほいなく、なれはまさらぬ御けしきの心うきこと。とうらみきこえ給ほどに、年もかへりぬ。



第十一  戀歌一
題しらず           柿本人麿
み狩する狩場の小野のなら柴の馴れはまさらで戀ぞまされる

二十一代集 新古今和歌集 上ノ二、下ノ二 蔵書

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正保四年  二十一代集

新古今和歌集 上ノ二
巻第六冬歌~巻第十羇旅歌





新古今和歌集 下ノ二
巻第十六雑歌上~巻第二十釈教歌






正保四年吉田四郎右衛門の刊行
新古今和歌集の巻末の刊記が有るはずだが、欠損。破り取った跡が有る。

朱書交合の跡が有る。

深井蔵書印
所有者不明。

国立国会図書館蔵14、16

源氏物語と新古今和歌集 露のやどりに君を置きて 賢木

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賢木

 れいならぬ日かずもおぼつかなくのみおぼさるれば、御文ばかりぞしげうきこえ給める。
ゆきはなれぬべしやと心み侍道なれど、つれ/ヾもなぐさめがたう、心ぼそさまさりてなむ。きゝさしたる事ありて、やすらひ侍ほど、いかに。
など、みちのくにがみにうちとけかき給へるさへぞめでたき。

あさぢふの露のやどりに君ををきてよもの嵐ぞしづ心なき

など、こまやかなるに、女君もうちなき給ぬ。御返し、しろきしきしに、

風ふけばまづぞみだるゝ色かはるあさぢが露にかゝるさゝがに

とのみありて、御手はいとおかしうのみなりまさるものかなとひとりごちて、うつくしとほゝゑみ給。



第八  哀傷歌
例ならぬこと重くなりて御ぐしおろし給ひける日上東門院中宮と申しける時遣はしける
            一條院御歌
秋風の露のやどりに君を置きてちりを出でぬることぞかなしき

※一条天皇の出家は1011年で、源氏物語の初見は1001年頃とされ本歌が他にあるのかも
しれない。

源氏物語と新古今和歌集 関吹きこゆる 須磨

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須磨

すまにはいとゞ心づくしの秋風に、うみはすこしとをけれど、ゆきひらの中納言の、せきふきこゆるといひけんうらなみ、よる/\はげにいとちかくきこえて、またなくあはれなるものは、かゝる所の秋なりけり。御前にいと人ずくなにて、うちやすみわたれるに、ひとりめをさましてまくらをそばたててよものあらしをきゝ給に、なみたゞこゝもとにたちくる心ちして、涙おつともおぼえぬに、枕うくばかりになりにけり。

 琴をすこしかきならし給へるが、我ながらいとすごうきこゆれば、ひきさし給て、

恋わびてなくねにまがふうらなみはおもふかたより風やふくらん

とうたひ給へるに、人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、しのばれで、あいなうおきゐつゝ、はなをしのびやかにかみわたす。


第十七  雜歌中
天暦御時屏風歌      壬生忠見
秋風の關吹き越ゆるたびごとに聲うち添ふる須磨の浦なみ

源氏物語と新古今和歌集 桜かざしし 須磨

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須磨

すまには、としかへりて日ながくつれ/ヾなるに、うへしわか木のさくらほのかにさきそめて、空のけしきうらゝかなるに、よろづの事おぼしいでられて、うちなき給ふおりおほかり。二月廿日あまり、いにしとし、京をわかれし時、心ぐるしかりし人々の御ありさまなどいと恋しく、南殿のさくらさかりになりぬらん、ひとゝせの花の宴に、院の御けしき、うちのうへのいときよらになまめいて、わがつくれるくをずじ給ひしも、おもひいできこえ給。

いつとなく大宮人のこひしきにさくらかざしゝけふもきにけり


第ニ 春歌下
題しらず          山部赤人
ももしきの大宮人はいとまあれ櫻かざして今日もくらしつ

源氏物語と新古今和歌集 あはと見て 明石

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明石

 京よりも、うちしきたる御とぶらひども、たゆみなくおほかり。のどやかなる夕月夜に、うみのうへくもりなくみえわたれるも、すみなれ給し故郷の池水思ひまがへられ給に、いはむかたなくこひしきこと、いづかたとなくゆくゑなき心ちし給て、たゞめのまへにみやらるゝはあはぢしま成けり、あはとはるかになど給て、

あはとみるあはぢのしまのあはれさへのこるくまなくすめるよの月

ひさしうてふれ給はぬきむをふくろよりとりいで給て、はかなくかきならし給へる御さまを、みたてまつる人もやすからず哀にかなしうおもひあへり。


松風

中におひたる。とうちずんじ給ふついでに、かのあわぢしまをおぼしいでゝ、みつねが、ところからか。とおぼめきけむことなどの給ひいでたるに、ものあはれなるゑいなきどもあるべし。

めぐりきててにとるばかりさやけきやあはぢのしまのあはとみし月


第十六 雜歌上
題しらず        凡河内躬恒
淡路にてあはとはるかに見し月の近きこよひはところがらかも

源氏物語と新古今和歌集 萌え出る春 蓬生

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蓬生

 いまはかぎりなりけり、としごろあらぬさまなる御さまを、かなしういみじきことを思ひながらも、もえいづるはるにあひ給はなむとねじわたりつれど、たびしかはらなどまでよろこびおもふなる御くらゐあらたまりなどするを、よそにのみきくべきなりけり、かなしかりしおりのうれはしさは、たゞわが身ひとつのためになれるとおぼえし、かひなきよかな、と心くだけてつらくかなしければ、人しれずねをのみなき給ふ。



第一   春歌上
題しらず 志貴皇子
岩そそぐたるひの上のさ蕨の萌えいづる春になりにけるかな

源氏物語と新古今和歌集 端山繁山 常夏、東屋

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常夏

 されど、わたり給ひて、御かたちをみ給ひ、いまは御ことをしへたてまつりたまふにさへことつけて、ちかやかになれより給ふ。ひめ君も、はじめこそむくつけくうたてとも思ひ給ひしか、かくてもなだらかに、うしろめたき御心はあらざりけりとやう/\めなれて、いとしもうとみきこえ給はず、さるべき御いらへも、なれ/\しからぬほどにきこえかはしなどして、みるまゝにいとあいぎやうづき、かほりまさり給へれば、なをさてもえすぐしやるまじくおぼしかへす。さはまた、さてこゝながらかしづきすへて、さるべきおり/\に、はかなくうちしのび、ものをもきこえてなぐさみなむや、かくまだよなれぬほどのわづらはしさこそ心ぐるしくはありけれ、をのづからせきもりつよくとも、ものゝ心しりそめ、いとおしきおもひなくて、わが心も思ひいりなば、しげくともさはらじかし、とおぼしよる、いとけしからぬことなりや。いよ/\心やすからず、思ひわたらむ、くるしからむ。なのめにおもひすぐさむことの、とさまかくさまにもかたきぞ、よづかずむつかしき御かたらいなりける。

東屋

つくばやまをわけみまほしき御心はありながら、は山のしげりまであながちに思いらむも、いと人ぎゝかろ/ヾしうかたはらいたかるべきほどなれば、おぼしはゞかりて、御せうそこをだにえつたへさせ給はず、かのあま君のもとよりぞ、はゝきたのかたに、の給しさまなどたび/\ほのめかしをこせけれど、まめやかに御心とまるべき事とも思はねば、たゞさまでもだづ ねしり給らん事とばかりおかしうおもひて、人の御ほどのたゞ今世にありがたげなるをも、かずならましかばなどぞよろづに思ける。




第十一  戀歌一
題しらず         源重之
筑波山端山繁山しげけれど思ひ入るにはさはらざりけり

源氏物語と新古今和歌集 道の果てなる常陸帯 藤袴、竹河

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藤袴

おなじのの露にやつるゝふぢばかまあはれはかけよかことばかりもみちのはてなるとかや、いと心づきなくうたてなりぬれど、みしらぬさまに、やをらひきいりて、

たづぬるにはるけき野べの露ならばうすむらさきやかとならし

かやうにてきこゆるより、ふかきゆへはいかゞとの給へば、すこしうちわらひて、



竹河

少將なりしも、三位中將とかいひておぼえあり。
かたちさへあらまほしかりきや
など、なま心わろきつかうまつり人はうち忍びつゝ
うるさげなる御有さまよりは

などいふもありて、いとおしうぞみえし。比中將は、猶思そめし心たえず、うくもつらくも思ひつゝ、左大臣の御むすめをえたれど、おさ/\心もとめず、みちのはてなるひたち帯のと、てならひにも、ことぐさにもするは、いかにおもふやうのあるにか有けん。


第十一  戀歌一 題しらず よみ人知らず
東路の道のはてなる常陸帯のかごとばかりも逢ひ見てしがな

源氏物語と新古今和歌集 幾返り 藤裏葉

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藤裏葉

宰相、盃をもちながら、けしきばかりはいしたてまつり給へるさま、いとよしあり。

幾かへり露けき春をすぐしきてはなのひもとくをりにあふらん

とうの中將にたまへば

たをやめの袖にまがへる藤の花みる人からや色もまさらむ

つぎ/\づんながるめど、ゑひのまぎれにはか/ヾしからで、これよりまさらず。七日の夕づく夜、かげほのからなるに、いけのかゞみのどかにすみわたれり。げに、まだほのかなる木ずゑどものさう/\しき比なるに、いたうけしきばみよこたはれる松のこだかきほどにあらぬに、かゝれる花のさま、よのつねならずおもしろし。


第十一  戀歌一
年を經ていひわたり侍りける女のさすがにけぢかくはあらざりけるに春の末つ方いひ遣はしける
                大中臣能宣朝臣
幾かへり咲き散る花を眺めつつもの思ひ暮らす春に逢ふらむ

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