Quantcast
Channel: 新古今和歌集の部屋
Viewing all 4450 articles
Browse latest View live

増鏡 第二 新島守 新島守

$
0
0

このおはします所は、人離れ里遠き島の中なり。海づらよりは少しひきいりて、山かげにかたそへて、大きやかなるいはほのそばだてるをたよりにて、松の柱にあしふけるらうなど、けしきばかりことそぎたり。

まことにしばのいほりのたゞしばしと、かりそめに見えたる御やどりなれど、さるかたになまめかしくゆゑづきてしなさせ給へり。

みなせどのおぼしいづるも夢のやうになん。はる/"\と見やるゝ海のてうぼう、二千里の外も殘りなきここちする今更めきたり。潮風のいとこちたく吹きくるを聞しめして、

われこそはにひじまもりよおきの海の荒きなみかぜ心して吹け

同じ世にまたすみのえの月や見ん今日こそよそにおきの島守

※海面より少し引き入りて

源氏物語 須磨 おはすべき所は、 行平の中納言の、「 藻塩垂れつつ」侘びける家居近きわたりなりけり。海づらはやや入りて、あはれにすごげなる山中なり。

※しばのいほりのたゞしばしと、かりそめに見えたる御やどりなれど

新古今和歌集 第十八 雜歌下 題しらず 西行法師 何處にも住まれずは唯住まであらむ柴のいほりの暫しなる世に

※二千里の外も

白氏文集卷十四 八月十五日夜、禁中獨直對月憶元九 白居易

銀臺金闕夕沈沈 獨宿相思在翰林

三五夜中新月色 二千里外故人心

渚宮東面煙波冷 浴殿西頭鍾漏深

猶恐光不同見 江陵卑湿足秋陰

※こころしてふけ

たなばたの衣のつまはこころして吹きなかへしそ秋の初風 小辨 
ことしげき世を厭れにしみ山邊にあらしの風も心して吹け 寂然法師 
千世までも心して吹けもみぢ葉を神もをしほの山おろしの 風藤原伊家


増鏡 第二 新島守 隠岐の春

$
0
0

年もかへりぬ。ところ/"\浦々、あはれなる事をのみおぼし歎く。

佐渡の院あけくれ御行ひをのみし給ひつゝ、なほさりともとおぼさる。

おきには、浦よりおちのはる/"\と霞み渡れる空をながめ入りて、過ぎにし方かきつくしおもほしいづるに、ゆくへなき御涙のみぞとゞまらぬ。

うらやまし長き日影の春にあひて鹽汲むあまもそでやほすらん

※うらやまし

いととしくすきゆく方のこひしきにうら山しくも帰浪哉 伊勢物語 後撰集 在原業平

松島や塩汲む海女の秋の袖月は物思ふ習ひのみかは 鴨長明 新古今和歌集

増鏡 第二 新島守 隠岐の夏

$
0
0

夏になりてかやぶきの軒ばにさみだれのしづくいと所せきも、御覽じなれぬみこゝちに、さまかはりてめづらしく思さる。

あやめふくかやが軒ばに風過ぎてしどろに落つるむらさめのつゆ

※あやめふく 玉葉集 夏歌

風吹けばしどろに見ゆる葛の葉の影定まらぬ夏の夜の月 金葉集初度

 

ふみしたきあさゆくしかや過ぎつらむしとろにみゆる野ぢのかるかや 藤原道経 千載集

玉水もしどろの軒のあやめ草五月雨ながら明くる幾夜ぞ 藤原定家 新拾遺集


増鏡 第二 新島守 隠岐の秋

$
0
0

初秋風のたちて、世の中いとゞ物悲しく露けきさまさるに、いはんかたなくおぼしみだる

ふるさとを別れぢにおふるくずの葉の秋はくれどもかへる世もなし

秋風の吹きうらかへすくずのはのうらみても猶うらめしきかな 平貞文 古今集

秋風になびきながらも葛の葉のうらめしくのみなどか見ゆらむ 叡覚法師 後拾遺集

葛の葉のうらみにかへる夢の世を忘れがたみの野べのあきかぜ 皇太后宮大夫俊成女 新古今 

増鏡 第二 新島守 都よりの消息

$
0
0

たとへしなくながめしをれさせ給へる夕暮に、沖の方にいと小さきこの葉の浮かべると見えて漕ぎくるを、あまのつりぶねと御覽ずる程に、都よりの御せうそこなりけり。

すみぞめのおんぞ、夜の御ふすまなど、都の夜寒に思ひやり聞こえさせ給ひて、七條院より參れる御ふみひきあけさせ給ふより、いといみじく御胸もせきあぐる心地すれば、やゝためらひて見給ふに、

あさましく、かくて月日へにけること。今日明日とも知らぬ命の内に、今一たびいかでみたてまつりてしがな。かくながらは死出の山路も越えやるべうも侍らでなん

など、いと多く亂れ書き給へるを、御顏に押し当てゝ

たらちねのきえやらで待つ露の身を風より先にいかでとはまし

やほよろづ神もあはれめたらちねのわれ待ちえんと絶えぬ玉のを

※海人の釣り舟

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ海人のつり舟 小野篁 古今集

※死出の山路

昨日まてちよとちきりし君をわかしての山ちにたつぬへきかな 藤原師輔 後撰集

さりともとなほ逢ふことを頼むかな死出の山路を越えぬ別は 西行法師 新古今

※たらちねの 後鳥羽院が出雲の大浜湊から七条院へ送った歌と吾妻鏡にある。

八重にほふ軒端の櫻うつろひぬ風よりさきに訪ふ人もがな 式子内親王 

※絶えぬ玉の緒

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする 式子内親王

増鏡 第二 新島守 雁信

$
0
0

はつかりのつばさにつけつゝ、ここかしこよりあはれなる御せいそこのみ常はたてまつるを御覽ずるに、あさましういみじき御涙のもよほしなり。家隆の二位は、新古今の撰者にも召し加へられ、おほかた歌の道につけてもむつまじく召し使ひし人なれば、夜ひる恋ひ聞ゆる事限りなし。かの伊勢よりすまにまゐりけんも、かくやと覺ゆるまで、巻き重ね、書きつらね參らせたり。

わかどころの昔の面影數々に忘れ難う

など申して、つらき命の今日まではべることの恨めしきよしなど、えもいはずあはれ多くて

寝覺めして聞かぬを聞きてわびしきは荒磯なみのあかつきの聲

とあるを、法皇もいみじとおぼして、御袖いたくしぼらせ給ふ。

なみまなきおきの小島の浜さびしひさしくなりぬ都へだてゝ

こがらしの隠岐のそま山吹きしをり荒くしをれて物思ふころ

折々よませ給へる御歌どもをかき集めて、修明門院へたてまつらせ給ふ。その中に

みなせやまわがふるさとは荒れぬらんまがきは野らと人も通はで

かざし折る人もあらばやことゝはん隠岐のみ山に杉は見ゆれど

限りあればさてもたへける身のうさよ民のわらやに軒を並べて

かやうのたぐひ、すべて多く聞こゆれど、さのみは年の積もりにえなん。今また思ひいでばついで求めてとて。

※初雁の翼につけつつ

はつ雁の翼につけて雲居なる人の心を空に知るかな 堀河院御時百首

※夜昼恋ひ聞こゆる

益荒男の現し心も我れはなし夜昼といはず恋ひしわたれば 万葉集巻第十一 柿本朝臣人麻呂之歌集出

※伊勢よりすまにまゐりけんも、かくやと

源氏物語 須磨

まことや、騒がしかりしほどの紛れに漏らしてけり。かの伊勢の宮へも御使ありけり。かれよりも、ふりはへ尋ね参れり。浅からぬ ことども書きたまへり。言の葉、筆づかひなどは、人よりことになまめかしく、いたり深う見えたり。…ものをあはれと思しけるままに、うち置きうち置き書きたまへる白き唐の紙、四、五枚ばかりを巻き続けて、墨つきなど見所あり。

※寝覚めして

壬生二集 雑歌

※波間無き

浪まより見ゆるこ舟の浜ひさ木ひさしく成りぬ君にあはずて よみ人しらす 拾遺集 伊勢物語 万葉集巻第十一

※みなせやま

里は荒れて人はふりにし宿なれや庭も籬も秋の野良なる 僧正遍昭 古今集

※かざし折る

かざしをる三輪の繁山かき分けて哀とぞ思ふ杉立てる門 殷富門院大輔 新古今集

歌論 無名抄 周防内侍家事

$
0
0

又、周防内侍、

われさへ軒の忍草

とよめるいへは、冷泉堀川の北と西との隅也。

※われさへ軒の

金葉集 雑歌上

家を人にはなちて立つとて、柱にかきつけける

住み侘びて我さへのきの忍草しのぶかた/"\繁き宿かな

周防内侍集

もろともにありしは、はらからなどもみなゝくなりて、心ぼそくおぼえて、すみうきたびところにわたりてほとけなどくやうするに、くさなどもしげくみえしかば

すみわびてわれさへのきのしのぶ草しのぶるかたのしげきやどかな

今鏡

まだそのいゑはのこりて、そのうたも侍る也。見たる人の語り侍りし。いとあはれにゆかしく。そのいゑはかみわたりにや。いづことかや。れいぜい院ほりかわのにしときたのすみなるところとぞ人は申し。をはしまして御らんずべき事ぞかし。

○ 関連 山家集

周防内侍、我さへ軒のと書き付けける古郷にて、人々思ひをのべけるに

いにしへはついゐし宿もあるものを何をか忍ぶしるしにはせむ

歌論 無名抄 連がら善悪事

$
0
0

歌はたヾ同ことばなれども、つヾけがらいひがらにてよくもあしくも聞ゆるなり。彼の友則が歌に
友まどはせる千鳥なくなり
といへる優にきこゆるを同じ古今の戀の歌の中に
戀しきに詫びて玉しゐまどひなば
といひ、又
身のまどふだに知られざるらん
といへるは、只同ことばなれどおびたヾしく聞ゆ。是はみなつヾけがら也。されば、古哥にたしかにしか/\ありなど證をいだす事は、樣によるべし。其哥にとりて善悪あるべき故也。曾禰好忠が哥に、
詞第七 はりまなるしかまにそむるあながちに人を戀しと思ふ比哉
あながちにと云ふ詞、打まかせて哥に讀べしとも覺えぬことぞかし。しかれども、しかまにそむるとつヾきてわざともえんにやさしく聞ゆる也。古今哥に、
古今第一 春霞たてるやいづこみよし野の吉野の山に雪は降りつヽ
是はいとめでたき哥なり。中にもたてるやいづこといへることば勝れてゆふなるを或人の社頭の菊といふ題をよbみ侍りしに、
神垣にたてるや菊の枝たわにたが手向たる花のしらゆふ
同じくたてるやとよみたれど、是はわざとも詞きかず手づヽげに侍り。

※友まどはせる
夕されば佐保の川原の川霧に友まどはせる千鳥鳴くなり 拾遺集 冬 紀友則


※戀しきに詫びて
戀しきに詫びて魂まどひなばむなしきからの何や残らん 古今集恋歌二 よみ人知らず


※身のまどふだに
人思ふ心や我にあらねばや身のまどふだに知られざるらん 古今集恋歌一 よみ人知らず


※はりまなる
播磨なる飾磨に染むるあながちに人を戀しと思うふころかな 詞花集恋歌上 曾禰好忠


※春霞
古今集春歌上 よみ人知らず


※神垣に
出典不明


歌論 無名抄 猿丸大夫墓事

$
0
0

或人云

たなかみの下にそつかと云所あり。そこに猿丸大夫がはかあり。庄のさかいにて、そこの券に書きのせたれば、みな人知れり。

※曾束

滋賀県大津市大石曽束。

ただし、方丈記には、

若ハ又アハツノハラヲワケツゝ、セミウタノヲキナカアトヲトフラヒ、タナカミ河ヲワタリテ、サルマロマウチキミカハカヲタツヌ。

と田上川(大戸川)を渡らないと行けない。

滋賀県大津市里付近ではないかないか。

建礼門院右京大夫集 大原

$
0
0

建礼門院樣が、大原の寂光院にいらっしゃるということ(元暦二年(1185年)7月以降)は、お聞きしておりましたが、取り次いで案内していただける人(面会を許可できる源氏方?)を知りませんでしたから、お訪ねする方法も無かったのですが、女院をお慕いする深い心を頼りにして、無理に訪ね申し上げましたが、だんだん大原に近づくにつれ、侘びしい山道の樣子から、まず涙が先に溢れて、言いようもなく悲しく、寂光院の庵のお住まいの御樣子、お暮らしぶりなど、すべてまともに見てられませんでした。
昔の栄華の御有り様を、拝見したことのない人ですら、大体の事柄の有り樣を拝見して、どうしてこれが普通の御暮らしぶりだと思えましょうか。ましてや昔の御姿を拝見している私としては、夢とも現実とも言いようがございません。
秋も深まった山おろしの風が、近い梢に響きあって、懸け樋の微かな水音、鹿の声、虫の音、どこの山里でも同じことなのでしょうが、私には例の無い悲しさでございました。都に居られた時は、この世の春をおう歌して錦の着物を着て(※見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける 素性 古今)仕えしていた人々が、六十人余りいたけれど、今では誰だったか見忘れるくらいにみすぼらしい尼僧の姿して、わずかに三、四人ばかりお仕えしておられる。その人々とも「それにしてもまあ」とばかりに、私もその方々も言い出だしたりして、むせび泣き、涙でいっぱいになって、言葉も続けられませんでした。

今や夢昔や夢と迷はれていかに思へどうつつとぞなき(風雅集 雑下)
(今の詫び住まいが夢なのか、昔の栄華が夢なのか迷ってしまい、どう考えても現実のことと思われません)
(本歌 忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪ふみわけて君を見むとは 伊勢物語八十三段 在原業平)

仰ぎ見し昔の雲の上の月かかる深山の影ぞ悲しき
(昔、宮中で拝見致しました雲の上の月の樣にお美しかった建礼門院樣が、この樣な深山にお住まいの御樣子を拝見致しますとは悲しいことであります。)
(参考歌 雲の上に掛かる月日の光見る身のちぎりさえ嬉しとぞ思ふ 右京大夫集)

花の美しさ、月の光に例えても、一通りの表現では満足できない程の昔の御姿が、別人ではないかと思われるほど(※我が身こそあらぬかとのみたどらるれとふべき人に忘られしより 小野小町 新古今)昔から衰えて、この樣なおいたわしい御姿を拝見しながら、何の楽しい思い出もない都(※月見ればまず故里ぞ忘られぬ思ひ出もなき都なれども 行尊 続拾遺)へ、ならば何故帰ろうとしている心が、嫌でとても辛く思われます。

山深くとどめおきつるわが心やがてすむべきしるべとをなれ
((建礼門院樣のお住まいになる)この山深い大原に残して置いてきた私の心が、やがて出家するという導きの道標となっておくれ
すむは、(月の)澄む、(大原に)住む(女院にお仕えする)の他に(行い)済む(出家する)の掛詞。)

女院、大原におはしますとばかりは聞きまゐらすれど、さるべき人に知られでは參るべきやうもなかりしを、深き心をしるべにて、わりなくて尋ねまゐるに、やうやう近づくままに、山道のけしきより、まづ涙は先立ちて言ふ方なきに、御庵のさま、御住まひ、ことがら、すべて目も当てられず。昔の御有様見まゐらせざらむだに、大方のことがら、いかがこともなのめならむ。まして、夢うつつとも言ふ方なし。


秋深き山おろし、近き梢に響きあひて、懸樋の水のおとづれ、鹿の声、虫の音、いづくものことなれど、例なき悲しさなり。都ぞ春の錦を裁ち重ねて候ひし人々、六十余人ありしかど、見忘るるさまに衰へはてたる墨染めの姿して、僅かに三四人ばかりぞ候はるる、その人々にも、さてもやとばかりぞ、我も人も言ひ出でたりし、むせぶ涙におぼほれて、すべて言も続けられず。

今や夢昔や夢とまよはれていかに思へどうつつとぞなき

仰ぎ見し昔の雲の上の月かかる深山の影ぞかなしき

花のにほひ、月の光にたとへても、一方には飽かざりし御面影、あらぬかとのみたどらるるに、かゝる恩事を見ながら、何の思ひ出なき都へとて、されば何とて帰るらむとうとましく心憂し。

山深くとどめおきつるわが心やがて住むべきしるべとをなれ

参考図書
現代語訳日本の古典 11 和泉式部・西行・定家他 辻邦生/訳 河出書房新社 
新編日本古典文学全集 47 建礼門院右京大夫集・とはずがたり 久保田淳/校注・訳 小学館 
新潮日本古典集成 建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江/校注 新潮社 
和歌文学大系 23 式子内親王集/建礼門院右京大夫集/俊成卿女集/艶詞 久保田淳/監修 明治書院
日本古典文学大系 平安鎌倉私家集 久松潜一 校注 岩波書店
日本詩人選 13 建礼門院右京大夫 中村真一郎 著 筑摩書房
NHK高校講座 ライブラリー 古典 第74回 私家集と歌論 建礼門院右京大夫集 お茶の水女子大学附属高等学校教諭 荻原 万紀子講師

歌論 無名抄 貫之家事

$
0
0

或人云
貫之がとし比すみける家の跡は、かでの小路よりは北、とみの小路よりは東のすみなり

京都御苑 桜町紀貫之邸跡

歌論 方丈記 和琴起事

$
0
0

或人云
和琴のおこりは、弓六張を引ならして、是を神樂にもちゐけるを、わづらはしとて、後の人のことに作り移せると申し傳へたるを、上總國の濟物のふるきしるし文のなかに「弓張帳」と書て、注に「御神樂のれふ」とかけり
とぞ。いみじき事也。

青獬眼抄 安元の大火

$
0
0

一 大燒亡事

後録記云。安元三年丁酉四月廿八日丁酉。天晴。今日亥剋燒亡。

積百十餘町。

先大學寮。次應天門并東西樓。此間眞言院燒亡。自應天門移會昌門。次移大極殿燒亡。其間東西廊燒亡。大極殿焼亡。神祇官大膳職共燒亡。此間又式部省又民部省焼亡。又右兵衞府典藥寮門等四足燒亡。此後朱雀門燒亡。
勸學院大學寮(但廟堂并門許所殘也)同時燒亡。大内結政一本御書所陰陽大炊寮官廳等財遁了。中和院先年燒亡。
惣遭火灾公卿侍臣等。

關白殿御所。錦小路南・大宮東。此間御坐于松殿北政所御所也。火間有御出也。
内大臣御所。五條坊門万里小路西角。寝殿葺比皮。自餘屋假葺。長押足固板敷。未被移徒。
大納言實定卿。三條南西洞院西町御所。彼生西洞院西。
大納言實國卿。爲聟公同宿油小路西
大納言隆季卿。四條北大宮東町彼坐。厘西四條南西門。
二位中將兼房卿。同宿大宮西聟君。
大納言邦綱卿。綾小路南西洞院西角。
中納言資長卿。綾小路北西洞院。
別當中納言忠親卿。三條北堀川西門。
中納言雅頼卿。三條南猪隈東角。
藤中納言實綱卿。五條南大宮西角。
右大弁三位俊經卿。六角南大宮西角。
藤三位俊盛卿。四條南朱雀西角町。
已上十三家也。
侍臣。可尋記。
大夫史隆職宿。綾小路南壬生西。

檢非違使

別當忠親卿。
權左光長朝臣。俊經卿聟公同南宅。當時五條坊門東洞院彼坐。同燒亡了。
志資成。押小路南。大宮東角。
重成四條坊門北大宮西面。
府生經弘。六角北大宮東面。
兼康。資成東。
此外可然人家不遑毛擧。

向官人

白河大夫尉康綱。 平尉資行。 新宗尉信房。
平尉康頼 中録事基廣。明法博士。 予。

先參向大理。次參大裡。閑院。可參大内之由蒙仰。引參向大内。凡不得滅付大極殿。風起吹覆火焔之間。官人依勝引退出。然間出待賢門。先康頼資行相竝。次康綱等已欲出額間之間。予云。爭出額間哉。可出他間之由云々。而開額間天差他間仍可令打開之由。予加下知。然而依不相叶。出額間。予不騎馬。自餘乍騎馬出了。爭難歩出額間哉。而乍騎馬出之條。且不便不知故實歟。希代之例也。額間者御輿之外不通也。然而廷尉多通額間哉。基廣參向勸學院大學寮。頼爲博士歟。兼綱朝臣留大内云々。前右京權大夫頼政者守護大内者也。仍兼綱朝臣令留大内了。予上○着淺沓。依大内燒亡也。康綱朝臣康頼内々間云。可上○否事。予答云。爭大内燒亡不上○哉。仍兩人上○自餘着毛沓。尤以不便々々。

※○糸片に舌。せつ

群書類従 巻第百八 青獬眼抄

史料綜覽 安元の大火

$
0
0

治承(安元)元年四月

廿八日 京師火アリ。延キテ、大内ニ及ビ、大極殿、八省院、會昌門、應天門、朱雀門、神祗官、民部省、主計寮、主税寮、眞言院、主水司、大膳職、大學寮、勸學院、關白基房以下公卿邸第十四、其他、坊市二萬餘家災シ、燒死者數千人アリ。權大納言藤原邦綱ノ正親町第ニ行幸シテ、之ヲ避ケ給フ。

廿九日 大極殿ノ災ニ依リテ、廢朝ス。是日、閑院ニ還幸アラセラル。

玉葉 安元の大火

$
0
0

安元三年四月

廿八日丁酉天晴。(略) 亥刻、上方有火。樋口富小路辺云々。曉更人告云。夜前火猶未消。京中人屋多以焼亡已。及内裏閑院云々。余騒起見之、火勢弥盛、其焔靡乾方。閑院有危歟。然而依疾厚、不能相扶。遣人令見實否。帰來云、於閑院者免了。雖然火勢熾盛、禁中大途爲焔下。仍忽幸正親町東洞院、邦綱卿第。駕腰輿関白騎馬出御自西洞院面西門云々。中宮同渡給乗糸毛云々。子細追可尋記。依大衆事駕腰輿卒爾行幸、爲物恠之由、世上謳歌。今以符合歟。


百練抄 安元の大火

$
0
0

廿八日。亥刻、火起自樋口富小路。火焔如飛。八省、大極殿、小安殿、青龍白虎樓、應天會昌朱雀門、神祇官八神殿、眞言院、民部省、式部省、南門、大膳職、勸學院等拂地燒亡。大内免其難。此外公卿家十餘家灰燼。皇居閑院依近々主上駕腰輿。行幸正親町邦綱卿第。凡東限富小路東、西限朱雀西、南限樋口、北限二條。凡百八十餘町。此中家不知幾萬家。希代火灾也。近年連々有火事變異。果而如此。

新古今和歌集断簡 恋歌三 宗梅

$
0
0

題不知                 高倉院御哥

けさよりハいとゝ於もひをたきましてなけきこりつむ逢坂の山

初會戀の心於            俊頼朝臣

あしのやの志川者多帯の可多結心やすくも打とくる可那

題不知                 読人不知

可里そめ尓ふしミのべ乃草枕露可ゝ里きと人尓可多留な

新古今和歌集 第十三 戀歌三

題しらず         高倉院御歌

今朝よりはいとどおもひをたきましてなげきこりつむ逢ふ坂の山

 後朝の後の今朝からは、いよいよ思いの火が焚き増して、嘆きという木を樵り(懲り)積でいる逢坂の山であるよ

初會戀のこころを  源俊頼朝臣

葦の屋のしずはた帶のかた結び心やすくもうち解くるかな

葦の家の倭文で織った粗末な帯の解けやすい片結びの様に心もすんなりと打ち解けてくれるだろうか

 

題しらず       よみ人知らず

かりそめにふしみの野邊の草まくら露かかりきと人に語るな

軽々しくちょっとでも伏見の野原で旅寝して露がかかった(これこれしかじかな事があった)などと人に言わないでください。

増鏡 第二 新島守 遠島歌合

$
0
0

さま/"\めでたくあはれにも、色々なる都のこと/"\を、ほのかに傳へ聞し召して、おきには、あさましの年の積もりやと御よはひにもそへても、盡きせぬ御嘆きぐさのみしげりそふ慰めには、おぼしなれにしことゝて、しきしまの道のみぞ御心をのべける。都へも便りにつけつゝ題をつかはし、歌を召せば、あはれに忘れがたく戀ひ聞ゆる昔の人々、われも/\とたてまつれるを、つれ/"\におぼさるゝ餘りに、みづから判じて御覽ぜられけり。

家隆の二位も、今までいける思ひでに、これをだにとあはれにかたじけなくて、こと人々の歌をもこゝよりぞとり集めて參らせける。

むかしのひでよしはありし亂れの後、かしらおろして深くこもりゐたり。にょぐあんとぞいひける。それもことたびの御歌合に召せば、今更にそのかみのこと、さこそは思ひいづらめ。

例のかず/"\はいかでか。ただかたはしをだにてとて

左御製

ひとごゝろうつりはてぬる花の色に昔ながらの山のなもうし

右家隆の二位

なぞもかく思ひそめけん櫻花山とし高くなりはつるまで

秀能

わたのはらやそ島かけてしるべせよはるかにかよふおきのとも舟

山家といふ題にて、又、左御製

のきば荒れてたれかみなせの宿の月すみこしままの色やさびしき

右家隆

さびしさはまだ見ぬ島の山里を思ひやるにもすむこゝちして

法皇みづから判のこと葉を書かせ給へるに

まだ見ぬ島を思ひやらんよりは、年久しくすみて思ひいでんは、今少し心ざし深くや

とて、わが御歌を勝とつけさせ給へる。いとあはれにやさしき御事なめり。かやうのはかなしごと、またはあみだ佛の御つとめなどにまぎらはしてぞおはします。御手習ひのついでに、

われながらうとみ果てぬる身の上に涙ばかりぞおもかはりせぬ

ふるさとはいりぬる磯のくさよたゞ夕しほみちて見らく少なき

※人心

本歌 花の色はうつりにけりないたづらに我が身世に経るながめせし間に 古今集 小野小町

さざなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな 千載集 平忠度

※なぞもかく

本歌 なげきこる山とし高くなりぬればつらづえのみぞまづつかれける。

※海の原

本歌 わたの原八十島かけてこぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟 古今集 小野篁

※ さびしさは

本歌 さびしさはみ山の秋の朝ぐもり霧にしをるるまきの下露 後鳥羽院 新古今集

俳諧連歌 歌仙 詩商人 其角

$
0
0

芭蕉一座連句 139巻 歌仙 しあきんと 其角 天和二年歳暮

1 しあきんととしをむさほるさかてかな 表 詩商人年を貪る酒手哉 冬
2 とうこひくれてうまにのするこひ 冬湖日暮て駕馬に乗する鯉 冬
3 ほこにふきえひすにせきをゆるすらん 戈鈍き蝦夷に関を許すらん 雑
4 さみせんひとのおにをなかしむ 三絃人の鬼を泣かしむ 雑
5 つきはそてこほろきねむるひさのうへに 月は袖蟋蟀眠る膝の上 月
6 しきのはしはるよるふかきなり 鴫の羽しばる夜深き也 秋
7 はちしらぬそうをわらふかくさすすき 裏 恥知らぬ僧を笑ふか草薄 秋
8 しくれやまさきからかさをまふ 時雨山崎唐笠を舞ふ 冬
9 ささたけのとてらをあゐにそめなして 笹竹の褞袍を藍に染めなして 冬
10 かりはのくもにわかとのをこふ 狩場の雲に輪若殿を恋ふ 恋
11 いちのひめさとのしやうかにやしなはれ 一の姫里の庄家に養はれ 恋
12 いひきなにたつといふたいをせめけり 鼾名立つと言ふ題をせめけり 雑
13 ほとときすうらみのりやうとなきかへり 郭公恨みの霊と啼き帰り
14 うきよになつむかんしきのやせ 浮き世に泥む寒食の痩せ 冬
15 くつははなひんおもしかさはさんたはら 沓は花貧重し笠はさん俵
16 はせうあるしのてふたたくみよ 芭蕉の主の蝶叩く見よ
17 くされたるはいかいいぬもくらはすや 腐れたる俳諧犬も喰らはずや 雑
18 ほちほちとしてねぬよねぬつき ぼち/\として寝ぬ夜寝ぬ月 月
19 むこいりのちかつくままにはつきぬた 名残表 婿入りの近付くまゝに初砧 恋
20 たたかひやんてくすうらみなし 戦ひ止んで葛うらみ無し
21 あさけりにわうこんはこむらさきにいる 嘲りに黄金はこ紫にいる 雑
22 くろたひくろしおとくめかちち 黒鯛黒しおとく妻が父
23 かれもかみささえのつのをまきをられ 枯れ藻髪栄螺の角を巻き折られ 恋
24 ましんをしとすあらうみのさき 魔神を使とす荒海の崎 雑
25 くろかねのゆみとりたけきよにいてよ 鉄の弓取り猛き世に出でよ 雑
26 とらふところにやとるあかつき 虎懐に宿る曉
27 やまさむくしすいのとこをふくあらし 山寒く四睡の床を吹く嵐 冬
28 うつみひきえてゆひのともしひ 埋み火消えて指の灯火 冬
29 けすきさきあしたをねたみつきをとち 下司后朝を妬み月を閉ぢ
30 すいくわをあやにつつむあやにく 西瓜を綾に包むあやにく 夏
31 あはれいかにみやきののほたふきしほるらん 名残裏 哀れ如何に宮城野のぼた吹き萎るらん
32 みちのくのえそしらぬいしうす 陸奥の蝦夷知らぬ石臼 雑
33 もののふのよろひのまるねまくらかす 武士の鎧の丸寝枕貸す 雑
34 やこゑのこまのゆきをつけつつ 八声の駒の雪を告げつゝ
35 しあきんとはなをむさほるさかてかな 詩商人花を貪る酒手哉 花
36 しゆんこひくれてきようにのるきん 春湖日暮れて駕輿に乗る吟 春

歌論 徒然草 第14段 和歌こそ、なほをかしきものなれ

$
0
0

和歌こそなほをかしきものなれ。あやしのしづ山がつのしわざも、言ひ出でつればおもしろく、おそろしき猪のししも「ふす猪の床」と言へば、やさしくなりぬ。

この比の歌は、一ふしをかしく言ひかなへたりと見ゆるはあれど、古き歌どものやうに、いかにぞや。ことばの外に、あはれに、けしき覚ゆるはなし。

貫之が、「糸による物ならなくに」といへるは、古今集の中の歌屑とかや言ひ伝へたれど、今の世の人の詠みぬべきことがらとは見えず。その世の歌には、姿ことば、このたぐひのみ多し。この歌に限りてかく言 ひたてられたるも、知り難し。源氏物語には、「物とはなしに」とぞ書ける。

新古今には「残る松さへ峰にさびしき」といへる歌をぞいふなるは、まことに、少しくだけたる姿にもや見ゆらん。されど、この歌も、衆議判の時、よろしきよし沙汰ありて、後にもことさらに感じ仰せ下されけるよし、家長が日記には書けり。

歌の道のみいにしへに変らぬなどいふ事もあれど、いさや。今も詠みあへる同じ詞歌枕も、昔の人の詠めるは、さらに、同じものにあらず、やすく、すなほにして、姿もきよげに、あはれも深く見ゆ。

梁塵秘抄の郢曲の言葉こそ、また、あはれなる事は多かンめれ。昔の人は、たゞいかに言ひ捨てたることぐさも、みないみじく聞ゆるにや。

※ふす猪の床

後拾遺集 巻十四 恋四 和泉式部 かるもかき臥す猪の床のいを安みさこそ寝ざらめかからずもがな

八雲御抄 巻第六 用意部

寂蓮法師がいひけるは、「歌の様にいみじきものなし。ゐのしゝなとといふ恐ろしき物も、『ふすゐのとこ』などいひつればやさしきなり。」といふ。

毎月抄

まづ哥は和國の風にて侍るうへは、先哲のくれ/"\かきをける物にも、やさしく物あはれによむべき事とぞ見え侍るめる。げにいかにおそろしき物なれど、哥によみつれば、優にきゝなさるゝたぐひぞ侍る。それにもとよりやさしき花よ月よなどやう物を、おそろしげによめらんは、なにの詮か侍らん。

※糸による

古今集 第9巻 羇旅歌 東へまかりける時、道にてよめる 紀貫之

糸によるものならなくに別れぢの心細くも思ほゆるかな

※物とはなしに

源氏物語 総角

みづからも参うでたまひて、今はと脱ぎ捨てたまふほどの御訪らひ、浅からず聞こえたまふ。 阿闍梨もここに参れり。名香の糸ひき乱りて、「 かくても経ぬる」など、うち語らひたまふほどなりけり。結び上げたるたたりの、簾のつまより、几帳のほころびに透きて見えければ、そのことと心得て、「 わが涙をば玉にぬかなむ」とうち誦じたまへる、伊勢の御もかくこそありけめと、をかしく聞こゆるも、内の人は、聞き知り顔にさしいらへたまはむもつつましくて、「 ものとはなしに」とか、「貫之がこの世ながらの別れをだに、心細き筋にひきかけけむも」など、げに古言ぞ、人の心をのぶるたよりなりけるを思ひ出でたまふ。

※残る松さへ

新古今集 第六 冬歌 春日社歌合に落葉といふことをよみ奉りし 祝部成茂

冬の來て山もあらはに木の葉降りのこる松さへ峯にさびしき

元久元年十一月十日 和歌所

※家長が日記

Viewing all 4450 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>