医心方とは、鍼博士丹波康頼が編纂し、永観二年(984年)朝廷に献上された日本現存最古の医学書である。
巻第十四「卒死并傷寒」
傷寒證侯 第廿三
葛方ニ云フ
傷寒時行温疫ノ三ツノ名有ルト雖モ同一種ノミニシテ源本小異ス。其レ冬月ニ暴カニ寒エ或ハ疾行シ力メテ汗出ルヲ作シテ風冷ヲ得春夏ニ至リテ發ルヲ名ヅケテ傷寒ト爲ス。其ノ冬月甚ダ寒カラズ暖氣多ク西南風ニ及ベバ人ヲシテ骨節ヲ緩堕セシメ邪ヲ得受ケ春ニ至リテ發ルヲ名ヅケテ時行ト爲ス。其の年ノ歳月中癘氣有リ兼ヌルコト鬼毒ノミニシテ相注[ツク]キテ挟ムヲ名ヅケテ温疫ト爲ス。此ノ如キヲ診ルニ侯並[ミナ]相似タリ。又貴勝雅言シ※総テヲ傷寒ト名[ナヅク]。世俗ニ同ジク時行号ヅク。道術ノ符効〔胡ト概ノ反シ〕ニ五温テヲ言フモ亦此レヲ以テ終ニ是レト共途シ大歸ヲ致セバ也。
※総 手偏にハム心
参考
医心方 丹波康頼撰、槇佐知子全訳精解 筑摩書房
写真:今熊野観音寺医聖堂と医心方碑