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Channel: 新古今和歌集の部屋
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源氏物語 若菜

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若菜上
秋好中宮 挿しながら昔を今に伝ふれば玉の小櫛ぞ神さびにける
 さしなからむかしをいまにつたふれはたまのをくしそかみさひにける
朱雀院 挿し継ぎに見るものにもが万代を黄楊の小櫛の神さぶるまで
 さしつきにみるものにもかよろつよをつけのをくしのかみさふるまて
玉鬘 若葉指す野辺の小松を引き連れて元の岩根を祈る今日かな
 わかはさすのへのこまつをひきつれてもとのいはねをいのるけふかな
源氏 小松原末の齢に引かれてや野辺の若菜も年を摘むべき
 こまつはらすゑのよはひにひかれてやのへのわかなもとしをつむへき
紫上 目に近く移れば変はる世の中を行く末遠く頼みけるかな
 めにちかくうつれはかはるよのなかをゆくすゑとほくたのみけるかな
源氏 命こそ絶ゆとも絶えめ定め無き世の常ならぬ中の契りを
 いのちこそたゆともたえめさためなきよのつねならぬなかのちきりを
源氏 中道を隔つる程はなけれども心乱るる今朝の淡雪
 なかみちをへたつるほとはなけれともこころみたるるけさのあはゆき
女三宮 儚くて上の空にぞ消えぬべき風に漂ふ春の淡雪
 はかなくてうはのそらにそきえぬへきかせにたたよふはるのあはゆき
朱雀院 背きにしこの世に残る心こそ入る山道の絆なりけれ
 そむきにしこのよにのこるこころこそいるやまみちのほたしなりけれ
紫上 背く世の後ろめたくは去り難き絆を強ひてかけな離れそ
 そむくよのうしろめたくはさりかたきほたしをしひてかけなはなれそ
源氏 年月を中に隔てて逢坂のさも関難く落つる涙か
 としつきをなかにへたててあふさかのさもせきかたくおつるなみたか
朧月夜 涙のみせき止め難き清水にて行き会ふ道は早く絶えにき
 なみたのみせきとめかたきしみつにてゆきあふみちははやくたえにき
源氏 沈みしも忘れぬ物をこりずまに身も投げつべき宿の藤波
 しつみしもわすれぬものをこりすまにみもなけつへきやとのふちなみ
朧月夜 身を投げむ淵も誠の淵ならで懸けじや更にこりずまの浪
 みをなけむふちもまことのふちならてかけしやさらにこりすまのなみ
紫上 身に近く秋や来ぬらむ見るままに青葉の山も移ろひにけり
 みにちかくあきやきぬらむみるままにあをはのやまもうつろひにけり
源氏 水鳥の青羽は色も変わらぬを萩の下こそ気色異なれ
 みつとりのあをははいろもかはらぬをはきのしたこそけしきことなれ
明石尼君 老の波かひある浦に立ち出でて塩垂るるあまを誰か咎めむ
 おいのなみかひあるうらにたちいててしほたるるあまをたれかとかめむ
明石女御 塩垂るるあまを波路の導にて尋ねも見ばや浜の苫屋を
 しほたるるあまをなみちのしるへにてたつねもみはやはまのとまやを
明石上 世を捨ててあかしの浦に住む人も心の闇は春けしもせじ
 よをすててあかしのうらにすむひともこころのやみははるけしもせし
明石入道 光出でむ暁近くなりにけり今ぞ見し世の夢語りする
 ひかりいてむあかつきちかくなりにけりいまそみしよのゆめかたりする
柏木 いかなれば花に木づたふ鶯の桜を分きて塒とはせぬ
 いかなれははなにこつたふうくひすのさくらをわきてねくらとはせぬ
夕霧 深山木に塒定むるはこ鳥もいかでか花の色に飽くべき
 みやまきにねくらさたむるはことりもいかてかはなのいろにあくへき
柏木 他所に見て折らぬ歎きは繁れども名残恋しき花の夕影
 よそにみてをらぬなけきはしけれともなこりこひしきはなのゆふかけ
小侍従 今更に色にないでそ山桜及ばぬ枝に心懸けきと
 いまさらにいろにないてそやまさくらおよはぬえたにこころかけきと

若菜下
柏木 恋わぶる人の形見と手馴らせば汝よ何とて鳴く音ならむ
 こひわふるひとのかたみとてならせはなれよなにとてなくねなるらむ
源氏 誰かまた心を知りて住吉の神代を経たる松に言問ふ
 たれかまたこころをしりてすみよしのかみよをへたるまつにこととふ
明石尼君 住之江の生ける甲斐ある渚とは年経る海女も今日や知るらむ
 すみのえをいけるかひあるなきさとはとしふるあまもけふやしるらむ
明石尼君 昔こそまづ忘られぬ住吉の神の験を見るにつけても
 むかしこそまつわすられぬすみよしのかみのしるしをみるにつけても
紫上 住之江の松に夜深く置く霜は神の掛けたる木綿鬘かも
 すみのえのまつによふかくおくしもはかみのかけたるゆふかつらかも
明石女御 神人の手に取り持たる榊葉に木綿掛け添ふる深き夜の霜
 かみひとのてにとりもたるさかきはにゆふかけそふるふかきよのしも
中務君 祝子が木綿うち紛ひ置く霜はげにいちじるき神の験か
 はふりこかゆふうちまかひおくしもはけにいちしるきかみのしるしか
柏木 起きて行く空も知られぬ明暗にいづくの露の掛る袖なり
 おきてゆくそらもしられぬあけくれにいつくのつゆのかかるそてなり
女三宮 明暗の空に憂き身は消えななむ夢なりけりと見ても止むべく
 あけくれのそらにうきみはきえななむゆめなりけりとみてもやむへく
柏木 悔しくぞ罪をかしける葵草神の許せ挿頭ならぬに
 くやしくそつみをかしけるあふひくさかみのゆるせるかさしならぬに
柏木 諸蔓落葉を何に拾ひけむ名は睦ましき挿頭なれども
 もろかつらおちはをなににひろひけむなはむつましきかさしなれとも
六条御息所 我が身こそあらぬ様なれそれながら空おぼれする君は君なり
 わかみこそあらぬさまなれそれなからそらおほれするきみはきみなり
紫上 消え止まる程やは経べきたまさかに蓮の露の掛るばかりを
 きえとまるほとやはふへきたまさかにはちすのつゆのかかるはかりを
源氏 契り置かむこの世ならでも蓮葉に玉居る露の心隔つな
 ちきりおかむこのよならてもはちすはにたまゐるつゆのこころへたつな
女三宮 夕露に袖濡らせとや蜩の鳴くを聞く聞く起きて行くらむ
 ゆふつゆにそてぬらせとやひくらしのなくをきくきくおきてゆくらむ
源氏 待つ里も如何聞くらむ方々に心騒がす蜩の声
 まつさともいかかきくらむかたかたにこころさわかすひくらしのこゑ
源氏 尼の世を他所に聞かめや須磨の浦に藻塩垂れしも誰ならなくに
 あまのよをよそにきかめやすまのうらにもしほたれしもたれならなくに
朧月夜 海人舟に如何は思ひ遅れけむ明石の浦に漁りせし君
 あまふねにいかかはおもひおくれけむあかしのうらにいさりせしきみ


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