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尾張廼家苞 羇旅歌6

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尾張廼家苞 三


 因縁次㐧で、毎度かはる主人を、  幾夜とひたづぬる事ぞと也。
  羇中夕          鴨長明 枕とていづれの草に契るらむ行を限の野邊の夕ぐれ  三ノ句、ちぎらましとこそいふべけれ。(其意にはあらず.にもじに心つくべし.                            草葉にちぎるとは、御縁が有て、今  宵の枕にする事など、つぶ/\  とかたらふほどの趣なり。  )らむにては、ふる郷人などの、旅なる人の  うへを思ひやりてよめるやうにて、かなひがたし。(其心にもきこゆれ                                    ど、自のうへの事と  きこえて、いと  よく叶ひたり。)四ノ句も、ゆきどまるをぞ宿とさだむると(此歌を取                                      たるにあら  ずは、無用の古哥は  引ても詮なし。  )いへる意とは聞ゆれども、行をかぎりとのみにては  ことたらはず。(行をかぎりはゆかるゝを限といふ事にて、則足をかぎり也。ゆか            るゝだけといふ事を、行とのみいひたるが、物遠く思はれしにや。一首の  意は、ゆかるゝだけを限にする野べの夕ぐれにて、どの草に、今宵は  枕にむすびまするぞやと、ちぎる事ならんと也。

  東の方へまかりける道にてよみ侍ける                民部卿成範
道のべの草の青葉に駒とめて猶ふる郷をかへりみるかな  此人は,信西が子なりければ,平治の乱に,老たる母,いときなき  子をとゞめ置て、東の國に流されて、くだらるゝ時の哥也後拾遺  集に、増基法師が、都のみかへりみられて東路も駒の心に  まかせてぞ行とあるは、駒のあへしらひなきを、(かやうにいひくだし                                  たる哥に、さのみあへ  しらひを  まつ物かは。)これは草の青葉といへるなどめでたし。(一首の意は、道                                     のべの草の  青〃としたる所に馬を駐めて、それが草くふうち、ナオじつと都の方をなが  めてゐたるよと也。唐詩に、草色青〃送馬啼といへるに似たる趣なり。   旅の哥          秀能


さらぬだに秋の旅ねは悲しきに松にふく也とこの山かぜ  四ノ句、山風の松に吹につきて、故郷人の我をまつらむと  おもひやらるゝ意なるべし。(此意はなし。故郷人といふ事、全篇にかけ                      てもなき事也。しか穿ちてみるは、哥のため  わろき事也。歌はたゞおいらかなるをよしとす。さかし立たるは、品下るわざ也。一首の意、  さうでなうても、秋の旅宿はかなしきものなるを、とこの山風が松をふく  其松風で、一しほ  かなしいとなり。)    攝摂家歌合ニ秋旅     定家朝臣 わすれなむまつとなつげそ中〃にいなばの山の峰の秋風  本歌、立わかれいなばの山の(嶺におふるまつとし                      きかば今かへりこん。)云〃、初句  は、故郷の事をおもへばくるしきほどに、いかで忘ればや  と思ふなり。然るを故郷人のまつときかば、わすれがたる


 べきほどに、中〃にさな告そと也。中〃にはなまじひニ也。
(なまじひにといはんよりも、かへつてといふ方  ちかし。俗にはけつくといふ。      )二ノ句の上へうつして心うべし。  故郷人のまつといふたよりはうれしかるべき事なれども、忘れ  んとおもふには防となれば、なまじひに待とな告そと也。 (かくの  如し)此哥は秋旅といふ題なるに、秋風といへるのみにて、  秋の意なし。いかゞ。(さては傍題なりよしともいひ難けれど、                  傍題は此ころの哥にこれかれみゆ)   百首歌奉りし時旅の歌                家隆朝臣
契らねど一夜はすぎぬ清見泻波にわかるゝあかつきの雲  清見泻に旅ねして、暁に立わかるゝ時に、浪のうへに



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