百人一首解
かさゝぎの哥 中納言家持
其元の御抄には色々の古事ヲ出ス。是ハ不好。此哥の
見やうは貞徳云、此哥の鵲のはしはたゞ天の事也。哥
の心は霜天満と云義也。家持が闇夜に起出て月もなく、
さへたる天に向ひ吟じ出たる也。霜の天に満たるとて
眼前にふりたる霜にはあらず。寒き夜は霜も満たるや
うにおぼゆるの心也。 季吟云、深夜の心すみて、お
りふし橋の一筋を見へて霜あきらかに置きわたすさま、
さらに此世ともおぼえず。 此説面白し。
◯此哥冷泉家五哥ノ一ツ也。まことに面白キ哥也。
太田白雪 著 松尾芭蕉の直門。三河新城の人。通称金左衛門長孝。
序に戊申夏五月日とあり、享保十三年に執筆したものと考えられている。貞徳、季吟、芭蕉の説を中心とした解説。高須露重と言う豊橋市吉田宿で飛脚業を営んだ富裕な商人に書き与えたもの。