九十八 造花
九十五
むかし二条の后に、つかうまつる男有けり。女のつかふまつるを、常に
見かはして、よばひわたりけり。いかで物ごしにたいめんしておぼつかなく
思ひつめたる事、すこしはるかさんといひければ、女いとしのびて、物
ごしにあひにけり。物かたりな(ン)どして男、
ひこ星に恋はまさりぬ天の川へだつる関を今はやめてよ
この哥にめでゝ、あひにけり。
九十六
昔男有けり。女をとかくいふ事月日へにけり。岩木にしあらね
ば、心くるしとや思ひけん、やう/\哀と思ひけり。その比みな月の
もち斗なりければ、女身に瘡ひとつふたつ出きにけり。女いひ
おこせたり。今は何の心もなし。身に瘡もひとつふたつ出たり。時
もいとあつし。すこし秋風吹たちなんとき、かならずあはんといへり
けり。秋まつ比ほひに、爰かしこよ、りその人のもとへいなんずなり
とて、くぜち出きにけり。さりければ、女のせうと俄にむかへにきた
◯たり。されば此女楓の初紅葉をひろはせて哥を読て書付ておこせたり。
秌かけていひしながらもあらなくに木葉ふりしくえに社有けれ
と書置て、かしこより人をこせば、是をやれとていぬ。扨やがて後、つ
ゐにけふまでしらず。よくてやあらん、あしくてやあらんいにし所も
しらず。かの男は、あまのさか手をうちてなんのろひおるなる。むく
つけき事。人ののろひ事は、おふ物にやあらん、おわぬものにやあら
む。今こそは見めとぞいふなり。
九十七
昔ほり川のおほいまうち君と申いまそかりけり。四十の賀
九条の家にてせられける日、中将なりける翁、
古今
桜花ちりかひくもれ老らくのこんといふなる道まがふかに
九十八
むかしおほきおほひまうち君と聞ゆるおわしけり。つかふまつ
る男、長月ばかりに梅のつくり枝にきじを付て奉るとて
古今
わが頼む君がためにと折花はときしも分ぬ物にぞ有ける
と読(ン)で奉りたりければ、いとかしこくおかしがり給ひて、使に禄給へりけり。
九十九
昔うこんのばゝノひをりの日、むかいに有たりける車に、女の㒵の
下すだれよりほのかに見えければ、中将なりける男読でやりける。
古今
見ずもわらずみもせぬ人の恋しくばあやなくけふや詠くらさん
かへし
知しらぬ何かあやなくわきていはん思ひのみこそしるべ成けれ
のちはたれとしりにけり。
百
昔男、後涼殿のはざまをわたりければ、あるやんごとなき人の御局よ
り、わすれ草をしのぶ草とやいふとて、出させ給へりければ給はりける。
わすれ草おふるのべとは見るらめどこは忍ぶ也後も頼まん
百一
むかし左兵衛督なりける在原行平といふ有けり。その人の家に
よき酒有と聞てうへに有ける左中弁藤はらのまさちかといふを
なん、まらうどざねされにて、その日はあるじまふけしたりける。なさけ有
人にて、かめに花をさせり。その花の中に、あやしき藤の花が有けり。