百二 親族なる尼?
花のしなひ三尺六寸ばかりなん有ける。それを題によむ。読は
てがたにあるじのはらからなる、あるじし給ふと聞て来りけりれば
とらへてよませける。もとより哥の事はしらざりければ、
すまひけれど、しゐてよませければかくなん。
咲花のしたにかくるゝ人おほみ有しに増る藤の影かも
などかくしも読といひければ、おほきおとゞの栄花の盛にみま
そかりて藤氏のことにさかゆるを思ひてよめるとなんいひける。みな
人そしらずなりにけり。
百二
昔男有けり。哥はよまざりけれど、世中を思ひしりたりけり。あ
てなる女のあまになりて世の中を思ひうんじて、京にもあらず。は
るかなる山里に住けり。もとしぞく成ければ、よみてやりける。
そむくとて雲にはのらぬ物なれど世のうき事ぞよそに成てふ
となんいひやりけり。斎宮のみやなり。