おぼしつゝ、御をこなひたゆみなくつと
めさせ給。人しれずあやうくゆゝ
しう思ひ聞え給ふことしあれば、我
にそのつみをかろめて、ゆるし給へと
仏をねんじ聞え給に、よろづをな
源
くさめ給。大"将もしか見奉り給て、
源
ことはりとおぼす。此殿の人どもゝ、
又おなしさまに、からきことのみあれ
源心
ば、世中はしたなくおぼされて、こ
もりおはす。左のおとゞも、おほやけ
わたくし、ひきかへたる世の有さまに、
物うくおぼして、ちじのへう奉り
こ
給を、みかとは、故院の、やむごとなく
おもき御うしろみとおぼして、なが
き世のかためと聞えをき給し、御ゆい
ごんをおぼしめすに、すてがたきもの
に思ひ聞え給へるに、かひなきことゝ、
左大臣
たび/\もちゐさせ給はねど、せめて
地
かへさひ申給て、こもりゐ給ぬ。今は
右大臣ノ
いとゞひとそうのみ、かえす/\さかへ
給ことかぎりなし。世のおもしともの
左大臣
し給へるおとゞの、かく世をのがれ給へ
ば、おほやけも心ぼそうおぼされ、よの
左大臣ノ
人も心あるかぎりはなげきけり。御こ
どもはいつれともなく、人々"らめやすく、
世にもちゐられて、心ちよけに物
し給しを、こよなうしづまりて、
頭中事
三位中将なども世を思ひしづめる
右大臣ノ女
さまこよなし。かの四の君をも、なを
かれ/"\にうちかよひつゝめざましう
右大臣
もてなされたれば、心とけたる御むこ
のうちにもいれ給はず。思ひしれと
にや。このたひのつかさめしにもも
頭中将 源
れぬれと、いとしも思ひいれず。大"将
源心
殿かうしづかにておはするに、世は
はかなき物と見えぬるを、まして
源心
ことはりとおぼしなして、つねにまい
りかよひ給つゝ、かくもんをし、あそび
地 も〃
をも、もろともにし給ふ。いにしへもゝ
のぐるおしきまで、いとみ聞え給しを、
おぼし出て、かたみにいまもはかな
きことにつけつゝ、さすがにいとみ給へり。
源
春秋のみど經をばさるものにて、
りんしにもさま/"\たうときこと共"
を、せさせ給などして、またいたつらに、
いとまありげなるはかせどもめしあ
つめて、ふみつくり、ゐむふたぎなど、
詩
やうのすさひわざどもをしなど心を
おぼしつつ、御行ひ弛みなく勤めさせ給ふ。人知れず危うく、ゆ
ゆしう思ひ聞こえ給ふ事しあれば、我にその罪を軽ろめて、許し
給へと、仏を念じ聞こえ給ふに、万づを慰め給ふ。大将も、しか
見奉り給ひて、理りとおぼす。この殿の人共も、又、同じ樣に、
からき事のみあれば、世の中はしたなくおぼされて、籠りおはす。
左の大臣も、公、私、ひき変へたる世の有樣に、物憂くおぼして、
致仕の表、奉り給ふを、帝は、故院の、止む事無く重き御後見と
おぼして、永き世の固めと聞こえ置き給ひし、御遺言をおぼしめ
すに、捨て難き物に、思ひ聞こえ給へるに、甲斐無き事と、度々
用ゐさせ給はねど、せめて、返さひ申し給ひて、籠りゐ給ひぬ。
今はいとど一族(ひとぞう)のみ、返すがえす栄へ給ふ事、限り
無し。世のおもしとものし給へる大臣の、かく世を逃れ給へば、
公も心細うおぼされ、世の人も心ある限りは歎きけり。
御子供は、何れともなく、人柄めやすく、世に用ゐられて、心地
よげに物し給ひしを、こよなう靜まりて、三位中将なども、世を
思ひ靜め樣、こよなし。かの四の君をも、なを離れがれに、うち
通ひつつ、めざましうもてなされたれば、心解けたる御婿のうち
にも入れ給はず。思ひ知れとにや。この度の司召にも、漏れぬれ
ど、いとしも思ひ入れず。大将殿、かう靜かにておはするに、世
は、はかなき物と見えぬるを、まして、理りとおぼしなして、常
に参り通ひ給ひつつ、学問をし、遊びをも、もろともにし給ふ。
いにしへも物狂るおしきまで、いどみ聞こえ給ひしを、おぼし出
でて、かたみに今も、はかなき事につけつつ、流石にいどみ給へ
り。春秋の御読経をば、さるものにて、臨時にも様々尊き事共を、
せさせ給ふなどして、又いたつらに、暇有りげなる博士ども召し
集めて、文作り、韻塞(ゐむふたぎ)など、やうの遊びわざ共を、
詩など、心を
京都市丸太町通 平安京創生館