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題しらず 西行
昔おもふ庭にうき來をつみおきて見しよにもにぬ年のくれ哉
こは年の暮に、年來とて、薪をつむことあるをよめるなり。
それをうき木とよめるは、浮木の名をかりて、うきこと
にいへるなり。昔おもふといひ、見し世にも似ぬといへる、うき意
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なり。 ふるき抄に、昔をこひたるにあらず。思ひ出たる
ばかり也といへるは、かなはず。さてはうき木といへる、何のよしぞや。
すべてよめる哥を、みな其人の境界にかなへてとかんとする
から、かゝるしひごとはいふ也。西行ならんからに、岩木にあら
ざれば、をりにふれては、などか昔をこふることもあらざらん。
歌はおもふ心を、いつはらず。たゞありによみ出ればこそ、め
でたき物にはあれ。うはべをつくろひかざりて、いさぎよく
見するは、うるさきから国ごゝろ也かし。
摂政
いそのかみふる野のをざゝ霜をへて一よばかりに残る年哉
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夜々をへたることを、笹の縁に、霜をへてといへる也。一よもさゝの
縁也。さていそのかみふる野とは、霜の縁のふるのために
いへるのみか。又年のふるくなれる意もあるか。よみ人心しられず。
四の句のに°もじ、一よばかりになるとこそいふべけれ。残るとてはいかゞ。
慈圓大僧正
年のあけてうきよの夢のさむべくはくるともけふはいとはざらまし
夢は、夜の明れば、さむる物なる故に、年の明てといへり。さ
れど年に明(アク)といふは、俗にちかし。 又いとふといへるも、か
なはず。すべていとふとは、物にても事にても、あるをにくみて、
なかれと思ふをこそいへ。年のくれゆくを、いとふとはいひがた
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し。年ならば、來るをいとふとはいふべし。これよく人のあや
まる事なり。心得おくべし。 此結句は、なげかざらまし
とあるべきを、後撰集に√花しあらばあかはすのをしからむ
くるともけふはなげかざらまし。といふ哥ある故に、すこしかへ
られたるにや。もし残らば、をしまざらましと社あるべけれ。
百首哥奉りし時 入道左大臣
いそがれぬ年の暮こそあはれなれむかしはよそに聞し春かは
すべて歳暮の哥に、いそぐとよむは、來む年の始のまうけ
をいとなむこと也。春◯はやく來よかしと、まつことく心得る
は、誤なり。 此哥は、入道の御身なる故に、春の始のまう
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けを、いとなむべきわざもなきよしなり。
土御門内大臣家にて海邊歳暮
有家朝臣
行年ををしまのあまのぬれ衣かさねて袖に波やかくらん
これは、海人の歳暮のさまを、思ひやりたる意也。 かさね
ては、衣の縁にて、常に波にぬれたるうへに、年をゝしむとて、
又涙をやかけそふらんと也。 或抄に、作者の身のうへの
意に註せるは、や°といひ、らんといへるにたがへり。
寂蓮
老の波こえける身にてあはれなれことしも今は末のまつ山
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二三の句、今年も今はといふにかけ合ず。√又こえて身ぞあは
れなる、などぞいはまほしき。或は√又かさねてやこえ
ぬべき、などにても有なむ。
千五百番哥合に 俊成卿
けふごとにけふやかぎりとおもへども又もことしに逢にける哉
けふやかぎりは、歳の暮にあふも、今年や限ならんの意。
四の句ことしは、歳の暮の今日の意也。二の句のけふと、
四の句のことしとを、たがひに入かへて心得べし。 三の句は、
おもひ來つれどもの意なり。 いたく老たる人の心、まことに
此哥の如くなるべく、思ひやられて哀なり。
※ 花しあらば 後撰集 春歌下 弥生のつごもり よみ人知らず
花しあらば何かは春の惜しからんくるとも今日はなげかざらまし
※社あるべけれ 社【こそ】。万葉集巻第三 昔者社(むかしこそ)難波居中跡。
※入道左大臣 藤原(三条)実房(1147ー1225)。愚昧記作者。
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