尾張廼家苞 四之上
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恋歌三
百首歌に 式子内親王
あふ事をけふまつがえの手向草いく夜しをるゝ袖とかはしる
本歌万葉一に、白なみの濱松がえの手向草いくよまでにか
年のへぬらん。初二句からうじてはじめてこよひと契りて、逢事
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をまつ也。しをるゝは草に縁あり。あふ事を今々とまつとて、幾夜袖
をぬらすとかおもふ。夜をかさねたる
年なれば、今はあひてなぐさめよといふ一首の意也。いくよは
上よりつゞきたるは幾年(ヨ)の義なれど、幾夜の意にとりなし給へり。下句はじめて
逢たる時にいふべきさまにて、まつ時のさまにはうとし。
上句にあふ事をまつとあり。下にも幾夜しほるゝとあるを、
はじめてあひたる時にいふさまと也。いかなる事ならん。
題しらず 西行
あふまでの命もがなとおもひしは悔しかりける我こゝろ哉
逢みて後、いよ/\おもひのいや増れるにつきて、おもへばいまだ
あはざりしほどに死たらんには、かゝるおもひはあるまじき物を、
逢まであらん命を願しは、とおもへばくやしと也。以上みな
よろし。
二條院御時暁かへりなむとする戀といふ事を
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其院讃岐署名の不故実なる事
物にて、其院とはあまり也。
明ぬれどまだきぬ/"\になりやらで人の袖をもぬらしつるかな
一首の意は、夜は明たれども別の惜さに、まだをのがきぬ/"\にえ
ならずして、人のきるものゝ袖さへぬらしたと也。二句は古歌の詞。
題しらず 西行
面影の忘らるまじき別かななごりを人の月にとゞめて
人のといへる詞いかにそやきこゆ。人のなごりをと打かへしてみるべし。
のはがの意。人がなごりを月にとめし
といふつるき也.一首は,あひし人が,月になごりをとゞめて行し事なれば,別て後も,
月はよな/|みる物故,此わかれの面かげは忘らるまじといふ事なれば,いかにぞやとも
きこえず。
袖のとあらば難なく、心も深かるべし。其故は袖の月といへば、
泪にうつれる月なるが、その月をとゞめんといへば、いつまでも涙
のかわかぬ意もこもれば也。袖のなみだに月のうつる意ばへは、今古我人
よみふるしたる故、それをまぬがれてたま/\
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かくいできたる物を、又例
のやうに直さんとにや。
後朝戀 摂政
又も來む秋をたのむの厂だにも啼てぞかへる春のあけぼの
だにもといへるにて、戀の歌になる也。たのむは頼むに田面を
兼たり。一首の意は、春の曙に又こん秋をたのみてわかるゝ田面
の厂すら、かなしとて啼てかへる物を、まして又いつ逢んと云
頼みなき此わかれを也。一首の意は、秋は又も來るといふたのみのある厂で
さへ、曙の別はなきてかへるに、まして又はいつ逢とい
ふ事のしられぬ別は、かなしさやる方もなしと也。
ましてより以下はだにといふもじより出來る意也。
題しらず 小侍従
まつ宵にふけ行鐘の聲きけばあかぬ別の鳥はものかは
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こよひは来んといふ契約なればとて、待てゐる夜の鐘の声が、段々時がふけてゆけば、
身にしみてかなしい。とくと打とげもせぬうちに、もはや別を告し鳥の声も悲しう
物の数にもあらずとなり。
題しらず 藤原知家
これも又長きわかれになりやせんくれをまつべき命ならぬは
これもは、此今朝の別もなり。又とは、此哥がやがて又ながき
別になりやせんといふ意也.一首の意、暮まで命があらば、こよひあはうけれど、今朝の
別の悲しさに命があるまいから、これが長い別れてあらうかと也.
西行
有明はおもひ出あれや横雲のたゞよはれつるしのゝめのそら
四の句は、横雲の縁にたゞよはれといへるにて、意はやすらはれつる意
なるべし。此歌三ノ句より下ははやく有し事にて、初二句はそれを
※白なみの
新古今和歌集巻第十七 雜歌中 朱鳥五年九月紀伊國に行幸の時 河嶋皇子
白波の濱松が枝のたむけぐさ幾世までにか年の經ぬらむ
万葉集巻第一 雑歌 川島皇子 34
白浪乃 浜松之枝乃 手向草 幾代左右二賀 年乃経去良武