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自讃歌 式子内親王 安政三年書写不明本 蔵書

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山ふかみはるともしれぬ松の戸に

 たえ/"\かゝるゆきの玉みづ

ながめつるけふはむかしに成ぬとも

 のきばの梅はわれを忘るな

詠わびぬ秋より外の宿もがな

 野にも山にも月やすむらん

桐の葉もふみわけがたく成にけり

 かならず人をまつとなけれど

君まつとねやへも入らぬまきの戸に

 いたくなふけそ山の端のつき

わすれては打なげかるゝ夕べかな

 我のみしりてすぐる月日を

玉の尾よたへなばたへねながらへば

 しのぶることのよわりもぞする

いきてよもあすまで人はつらからじ

 この夕ぐれをとはゞとへかし

夢にてもみゆらんものをなげきつゝ

 うちぬるよひの袖のけしきは

それながらむかしにもあらぬ
       は  秋かぜに
 いとゞながめをしづのをだ巻

新古今和歌集巻第一 春歌上
 百首歌奉し時春の歌
                式子内親王
山ふかみ春とも知らぬ松の戸にたえだえかかる雪の玉水

よみ:やまふかみはるともしらぬまつのとにたえだえかかるゆきのたまみず 雅 隠

意味:山深い里の春になったとも知らぬ我が宿の、春を待っている松の戸に、絶え絶えに雪解けの水が掛かって、春になった事を知らせてくれる。

作者:しきしないしんのう1149~1201しょくしないしんわう、のりこないしんのうとも。後白河上皇の皇女、賀茂神社の斎院。藤原俊成に和歌を学ぶ。忍恋の情熱的な秀歌が多い。

備考:正治二年後鳥羽院御初度百首歌。松の戸は、白居易の松門到暁月徘徊より歌語で待つを掛ける。定家十体の有心様の例歌。

 

 百首歌奉りしに春歌
                式子内親王
ながめつる今日は昔になりぬとも軒端の梅はわれを忘るな

よみ:ながめつるきょうはむかしになりぬとものきばのうめはわれをわするな 隆雅 隠

意味:眺めている今日が、いずれ昔の事になって私がいなくなったとしても、軒端の梅は私を忘れないでくれ

備考:正治二年後鳥羽院御初度百首歌。定家十体で濃様の例歌。

 

巻第四 秋歌上
 百首歌奉りし時月の歌に
                式子内親王
ながめわびぬ秋より外の宿もがな野にも山にも月やすむらむ 選者無 隠

よみ:ながめわびぬあきよりほかのやどもがなのにもやまにもつきやすむらむ

意味:物思いに更けながら眺めているのに耐えられなくなった。秋が無い家が有ったらなあ。しかし野原にも山にも澄んだ月が住んでいるから私を物思いに更けさせるだろう。

備考:正治二年後鳥羽院御初度百首歌。定家十体の濃様の例歌。澄むと住むの掛詞。初句、三句切れ。本歌 いづこにか世をば厭はむ心こそ野にも山にもまどふべらなれ(古今集 雑歌下 素性法師)

 

巻第五 秋歌下
 百首歌奉りし時秋の歌
                式子内親王
桐の葉もふみ分けがたくなりにけり必ず人を待つとならねど

よみ:きりのはもふみわけがたくなりにけりかならずひとをまつとならねど 有定雅 隠

意味:桐の落ち葉も、道かどうか分からなくほど降り積もってしまった。必ず、つれない人を待って、来る道が分からなくなる事を心配している訳でも無いのだが。

備考:正治二年後鳥羽院御初度百首歌。本歌 わが宿は道もなきまで荒れにけりつれなき人を待つとせしまに(古今集 恋歌五 遍昭)本説 和漢朗詠集 落葉 秋庭不掃携藤杖閑踏梧桐黄葉 白居易。

 

巻第十三 恋歌三
 待戀といへるこころを
                式子内親王
君待つと閨へも入らぬまきの戸にいたくな更けそ山の端の月

よみ:きみまつとねやへもいらぬまきのとにいたくなふけそやまのはのつき 有定隆雅 隠

意味:君が来ると言うので閨にも入らずに待っているのに、真木の戸に山の端の月が差し込んで来て、夜もだいぶ更けたと教えないでくれ

備考:出典未詳 女房三十六人歌合、定家十体の有一節様の例歌。美濃、常縁原撰本新古今和歌集聞書、新古今注、新古今和歌集抄出聞書(陽明文庫)。本歌 君こずはねやにもいらじこ紫わがもとゆひに霜は置くとも(古今集 恋歌四 よみ人知らず)。窪田空穂によれば、源氏物語明石の「むすめ住まはせたる方は、月入れたる真木の戸口けしきばかりおし開けたり」源氏から見た風景を連想しているとしている。兼載の自讃歌注では、参考歌として あしびきの山よりいづる月まつと人には意ひて君をこそまて(拾遺集 恋歌三 人麻呂)を挙げている。

 

巻第十一 恋歌一
 百首歌の中に忍恋を
                式子内親王
忘れてはうち歎かるるゆうべかなわれのみ知りて過ぐる月日を

よみ:わすれてはうちなげかるるゆうべかなわれのみしりてすぐるつきひを 隆 隠

意味:忘れてしまって、その事に歎いてしまう夕べだなあ。忍ぶ恋のつらさを私だけが心に秘めて来た月日の長さを。

備考:百首歌未詳。定家八代抄。詠歌一体では「われのみ知りて」は制詞。定家十体では幽玄様の例歌。本歌 人知れぬ思ひのみこそわびしけれわが歎きをばわれのみぞ知る(古今和歌集恋二 紀貫之)

 

巻第十一 恋歌一
 百首歌の中に忍恋を
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする

よみ:たまのおよたえなばたえねながらえばしのぶることのよわりもぞする 有定隆雅 隠

意味:私の魂の緒よ。絶えるなら絶えてしまえ。生き長らえていたら貴女への秘密の恋を忍ぶ心が弱って秘密を世間に知られてしまうから。

備考:百首歌未詳。百人一首。定家八代抄。源氏物語の柏木の気持ちでと田渕句美子は述べている。定家十体の有心様の例歌。

 

巻第十四 恋歌四
 百首歌中に
                式子内親王
生きてよも明日まで人はつらからじこの夕暮を問はばとへかし

読み:いきてよもあすまでひとはつらからじこのゆうぐれをとわばとえかし 有隆雅 隠

意味:まさか明日まで貴方のことで嘆き悲しみながら生きてることができません。だからこの夕暮にこの歌を聞いたなら訪ねて来て欲しい。

備考:百首歌不詳。定家十体では幽玄様の例歌。

 

巻第十二 恋歌二
 百首歌中に
                式子内親王
夢にても見ゆらむものを歎きつつうちぬる宵の袖のけしきは

よみ:ゆめにてもみゆらむものをなげきつつうちぬるよいのそでのけしきは 有定隆雅 隠

意味:あの人はもう私の事は忘れてしまったので、私の夢にも出て来ないのを歎き疲れて寝てしまう宵の袖が、ぐっしょりと濡れている有樣は

備考:正治二年後鳥羽院初度百首。定家十体の有一節様の例歌。相手が自分の事を思ってくれていると夢に出て来ると言う俗説から。契沖の書入本には、むばたまの夜の夢にはみゆらんや袖ひるまなく我しこふれば 家持集 を本歌としている。

 

巻第四 秋歌上
 秋歌とてよみ侍りける
                式子内親王
それながら昔にもあらぬ秋風にいとどながめをしづのをだまき

よみ:それながらむかしにもあらぬあきかぜにいとどながめをしずのおだまき 定隆雅 隠

意味:昔のようでありながら昔とは違った愁いを催す秋風に、一層物思いをし、(賤の苧環)繰り返してばかり

備考:秋風には式子内親王集 前小斎院御百首では月影となっている。いとどは、糸を掛けて苧環の縁語。ながめをしつから賤を導く。

本歌 いにしへのしづのおだまき繰り返し昔を今になすよしもがな(伊勢物語、古今集) 月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして(伊勢物語、古今集) 花の色も宿にも昔のそれながら変われるものは露にぞありける(拾遺集 清原元輔) 松風も岸うつ波のもろともに昔にあらぬ音のするかな(恵慶集)

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