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詩歌と気象生物 8 かはず鳴く 古池と蛙2

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(ウェップリブログ 2008年01月07日~)

7 かはず鳴く 古池と蛙

平安時代の源順(911ー983)が、醍醐天皇皇女勤子内親王の為に承平頃著した漢和辞典的性格の倭名類聚鈔(和名抄 風間書房を参照)第十九には

蝦蟇 和名賀閉流(かへる)で、かま、ろうかく。かつとう、かとというのは、おたまじゃくしを言うそうです。アカガエル、トノサマガエルをさしている。

青蝦蟇 和名阿乎加閉流(あおがへる)大きくて背が青く土鴨ともいう。トノサマガエルの可能性が強い。

黒蝦蟇 和名豆知加閉流(つちかへる)黒色で蛤子ともいいます。

蛙黽 和名阿末加閉流(あまがへる)形は小さく蝦蟇の如く青色をしているとあり、アマガエルを指しますが、アオガエルも含まれると言われています。黽はベン、ビン、ボウと読み、蛙の象形文字ですが、尻尾があるので亀を意味を指す部首に使われるそうです。

蟾蜍 和名比木(ひき)蝦蟇に似て大きく陸にいるものとあります。後に蟾蜍と蝦蟇は区別が付けられなくなったそうです。

今昔物語には、安倍清明が公達にせがまれて、池にいる蛙を一匹潰す話(巻第二十四第十六話)、女が蛇と交わり蛙の子の様な物が出て来る話(巻第二十四第九話)があり、これらはすべて蝦蟇(かへる)とあります。

道綱母が著した蜻蛉日記には、寺に参篭した後あまかへる(雨蛙=尼帰る)とあだ名されたとあります。

古池や蛙飛び込む水の音(芭蕉 蛙合 貞享三年)

這ひ出よかひやの下のひきの声(芭蕉 奥の細道 尾花沢)

痩蛙まけるな一茶是に有(一茶 七番日記 文化十三年)

俳句で蛙を詠んだものとして、俳句を詳しく無い人もよく知っている句ではないでしょうか?

古池やは、何処の事かと人に聞かれたので調べてみたところ、深川芭蕉庵にある杉風が魚を入れて置く池とされており、江戸名所図にも芭蕉庵の横に池が画かれています。

しかし、芭蕉の生存中の元禄五年に弟子の支考が著した「葛の松原」に、初め芭蕉が『蛙飛込む水の音』ができ、其角が伝統の『山吹や』の初句を提案し、芭蕉はただ、『古池や』に決定したとあります。

と言うことで何処という事ではなく芭蕉のイメージした所が正解かと。

深川の芭蕉庵があった辺りは、現在小さな公園になっており、芭蕉像が隅田川を見つめています。

又大正時代に津波があり、その跡から芭蕉のものと言われる石の蛙の置物が出土し、深川芭蕉記念館に展示してあります。

痩蛙の蛙いくさのヒキガエルの繁殖期はとても短く、東京の2月末~3月上旬のある一定地温の上昇と降水ともにぞろぞろと集まり、特定の池で産卵するそうです。

しかしこの痩蛙の句の詞書には四月廿日とあります。旧暦なので現在の5月下旬頃となり、ヒキガエルの繁殖期とは異なります。

前述に痩蛙の句は足立区竹ノ塚の炎天寺と書きましたが、七番日記には句と共に所在や天気、そして閨事まで記載しており文化十三年の四月は八日から長野県小布施町の「六川菅相山(梅松寺)ニ入」と記載されております。同町の岩松院で詠んだという事で句碑もあるとの事。

旧暦の四月二十日が今の何時になるかと調べてみたところ、

文化四年(1807年)5月27日

文化五年(1808年)5月15日

文化六年(1809年)6月2日

文化七年(1810年)5月22日

文化八年(1811年)6月10日

そして

文化十三年(1816年)5月16日

この矛盾で考えられるのは、高度差による気温の違いが考えられ、一茶の長野の信濃町の黒姫山中や小布施町なら降雪地帯でもあり地温が低いのでヒキガエルの繁殖期は遅れるのでは無いでしょうか。

少なくとも東京で吟じた可能性は無いかと思われます。

しかし長野としても岩松院のHPには蛙軍は桜の花見の頃とあり、4月下旬としても未だ20日も遅い。もちろんその年が降雪が多く、雪解けが遅く地温の上昇が進まなかった事も考えられます。

「文化十三年四月十八日よりの部」にある句には

短夜やゆうぜんとして桜花

とあります。

七番日記には、二カ所この句が書かれており、文化七年の後に文化十三年六月之部が来ていてその中にあり、空いた紙面にメモを書いたと推察されています。

もう一つは文化十三年の三月(句は二月以降)

周りの句は初がつお、蛍、夕涼み、時鳥等夏の季語が並んでいます。

日記上部の日付と下の句の関係は無いとの事。

文化十三年は一茶53歳で初めて4月14日に子千太郎が生まれ、一ヶ月で死んでしまいました。「まけるな一茶」とは自分に対してエールを、昔江戸竹ノ塚で作った俳句を蛙軍を小布施町で見て思い出して、子どもが死んだ悲しみの中、七番日記の六月の部に記載したのではと推察致します。

二カ所とも詞書は同じで「蛙たゝかひ見にまかる四月廿日也けり」で「四月廿日 蛙たゝかひ見にまかる」で良いと思うのに何故逆に書いたのかとは思います。

蛙のそれぞれの鳴き方、種毎の生態を見てみると、

繁殖音:繁殖期だけオスが発する声

縄張り音:繁殖期にオスの個体同士の間隔を保つ為に鳴く声

解除音:オスが間違って他のオスに抱き着かれた時、メスが産卵を終えたのにオスに抱き着かれた時に鳴く音

繁殖期は自分より大きいものに抱き着く習性があるそうです。

警戒音:水辺にいるカエルが驚いて水に飛び込む時に発する短い声

芭蕉は、蛙が飛び込む前に聞いたはずの声ということでしょうか。

危難音:蛇等の外敵に捕まった時に発する音

断末魔の声です。

雨鳴き:降雨等湿度が高い時アマガエル等が鳴く声

最もよく聞く声ですね。

アマガエル以外は繁殖期に鳴くというので、種毎にみてみると

アズマヒキガエル(京都より東にいる蟾蜍):2月から7月が繁殖期だが20cmの深さの地温が7℃になると一斉に繁殖する池に集まり、一週間程度の短い期間で蛙軍を行う

ニホンヒキガエル(奈良より西にいる蟾蜍):生態はアズマヒキガエルとほぼ同じだが、屋久島などは秋に繁殖期を迎える

ナガレヒキガエル(渓流に住むヒキガエルで中部にいる):4月から5月

カジカガエル:繁殖期は4月から8月で非常に長く続く。オスが石の上に縄張りを主張して、メスが夜に来るのを待つ。

山吹の咲く頃から鳴き始めるので、梅鴬、時鳥卯の花の様にセットで歌われるのでしょう。

以上の事を考察すると、万葉集時代からかはづをカジカガエルに限定出来ず、ヒキガエルの場合もかはづであろうと思います。

かい屋で中晩秋には蛙は鳴かないが、火を焚く事でヒキガエルが春と思い、冬眠から出て鳴いたのかも。

環境の悪化により、日本の在来種の一部は絶滅危惧種となり、ウシガエルの様な外来種は異常に繁殖してしまう等、又最近は外国から人が持ち込んだカエルのカエルツボカビ症等絶滅の恐れまで出て来たそうです。


かはづが鳴くのを録音でしか聞けない様な社会にだけはしたくないですね。

 

参考図書

一茶全集 信濃毎日新聞社

HP こよみのページ他

日本カエル図鑑 文一総合出版

カエル 水辺の隣人 松井正文著 中公新書

日本の両生類爬虫類 平凡社

日本のカエル 山と溪谷社


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