猿沢池の月
読み人しらず
長閑なる波にぞ凍る猿沢の池よりとをく月はすむとも
春日野の鹿
勧修寺参議右大辨経重
無臭無聲野色妍
只看麋鹿食草眠
舜深山與文霊囿
斯處聖神易地然
権中納言公勝
春日山峯の嵐や寒からむ麓の野辺の鹿ぞ鳴くなる
東大寺の鐘
前大納言四辻入道善成
をく霜の花をいつくし名も高しふりぬる寺の鐘の響きに
三笠山の雪
徳大寺左近衛大将實時
白雪無邊藏數峯
和光有跡此山中
于時大樹着花處
榮色知新利物功
西園寺前右大臣實俊
三笠山さして頼めば白雪の深き心を神や知るらむ
轟橋行人
小倉前中納言藤原定継
打渡る人目も絶えず行く駒の踏みこそ鳴らせ轟の橋
南円堂の藤
読み人しらず
藤浪は神の言葉の花なれば八千代をかけて猶ぞ栄へむ
雲井坂の雨
権中納言藤原爲重
村雨の晴れ間に越えよ雲井坂三笠の山は程近くとも
佐保川の螢
転法輪三條前内大臣公忠
飛ぶ螢(び渡る)影を映して佐保川の浅瀬に深き心をぞ知る
大和名所圖會ほかより